①(ほぼ)レギュラーなP-P/R-R間隔
②心拍数:60~100/分
③P電気軸:0~+90°(Ⅰ,Ⅱ,aVF,V3~V6:陽性,aVR:陰性)
④P幅:正常(120ms未満)
⑤PR間隔:正常(120~200ms)
⑥QRS幅:正常(100ms未満)
⑦P:QRS=1:1(1つのP波の後に必ずQRS波が1つ続く)
『学び直し! 心電図塾』の記念すべき第1回は,「洞調律」,しかも“正常”とついた場合です。概念的には,洞結節が本来備わったペースで“自家発電”し,心臓全体への“号令”が電気刺激として心房,さらには房室結節から心室まで滞りなく伝わっていくことです。結果的に心筋全体が同調して収縮・拡張が起きます。われわれの心臓の“デフォルト”のリズムと言えます。
通常の体表面心電図では,洞結節の活動を捉えられないため,その指令を最初に受ける心房の興奮・収縮を反映するP波の様相で代用されます。①②は,洞結節に備わった固有のペース,レート(心拍数)の特性を反映した表現です。
③が最も重要で,洞結節から心房へのシグナル伝導は,大きく捉えて「上→下」,「右→左」の合成と言えることに関連しています。ごくシンプルに,「Ⅱ:陽性,aVR:陰性」とだけ記された文献もありますが,カッコ内の8つの誘導でP波の極性を確認できたら,より精度が高まります。なお,拙著では胸部誘導の条件を「V4~V6」(ブイシゴロ)と紹介するケースが多いですが,ここは国際的な文献に合わせました(ブイサシゴロ)。V3だけ陽性の条件を満たさないという状況はきわめて稀かとも思いますが。
残りの条件ですが,洞結節からのシグナルが,心房内(④*),房室接合部(⑤),脚以下心室まで(⑥)遅滞なく伝わり,その結果,ほぼレギュラーなQRS波から少しだけ手前の“定位置”にP波が必ず1個ついた「P-QRS」という格好の繰り返しになるわけです(⑦)。つまり,条件④以降は洞結節からの“号令”(電気刺激)が心臓全体に“ちゃんと伝わる”ことを表しているのです。
*「P波高」の条件まで言及されるきらいがありますが,「正常心電図」と混同されている気がします。リモデリング(拡大)など形態の話と電気伝導は区別すべきと考えます。
「正常洞調律」を厳密に述べると,実に7つもの条件になってしまいますが,キモとなるのは②③の2つで,それ以外はほぼ自動的に満たされることが多いと思います。
特に洞性P波の証拠となる条件③は何度も口に出して空で言えるようにしておきましょう。この確認なくして,心電図判読はスタートしませんよ!
日常の臨床現場において,心電図所見を述べるとき,「正常」はあえて付けずに,『心拍数~/分の洞調律』と言えば十分です。きちんと定義をおさえた上で述べる分には構いませんが,何でもかんでも一言目を「ノーマル・サイナス・リズムで…」とはじめる人も散見されるので,注意して欲しいと思います。
「正常でない」洞調律として最も有名なのは「洞不整脈」で,これはR-R間隔の条件①が満たされなくなるものです(呼吸性と非呼吸性あり)。
さらに心房と心室とが別々の調律で動いている場合も要注意です。具体例は完全房室ブロック,心房同期型心室ペーシング,心室頻拍などです。これらの場合,心房に関しては,条件③を満たせば「洞調律」と判定できますが,心室は別のリズムで動いているため,もちろんこちらの調律に関しても言及する必要が出てきます。