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第66回:総括2024【前編】/Annual review 2024

登録日:
2024-12-25
最終更新日:
2025-01-15

執筆:Dr.ヒロ|杉山裕章

▶新年のご挨拶

皆さま,新年明けましておめでとうございます。晴々とした気持ちで新年の原稿を書いております。2022年4月から始まった本連載ですが,多くの方が苦手にされている心電図に関して,“どこよりもわかりやすく丁寧に”をモットーに基本から応用まで解説してきました。4年目のシーズン突入も見えてきましたが,引き続き頑張っていく所存ですので,御愛顧どうぞよろしくお願い申し上げます。2025年1月の2回は,【前編】【後編】として2024年の振り返りから始めたいと思います。

2024年は,“心電図の父”であるアイントーベン(Willem Einthoven)先生がノーベル生理学・医学賞を受賞して,ちょうど100年の節目に当たる年でした。そんな年に『Dr.ヒロの学び直し! 心電図塾』は,心電図誘導の世界観No.5202,第42回参照)から徐脈頻脈症候群【後編】No.5252,第65回参照)までの計24回の熱い講義をお届けしました。以下のダイジェストも参考にしながら,実際のレクチャーを振り返って頂くとよい復習になるかと思います。

▶誘導は心臓を眺める“視点”

2024年1発目は,12誘導の“視点”と題して,現在の標準的な誘導システムが意味する方向性に関して解説した心電図誘導の世界観No.5202,第42回参照)でした。もともと単極誘導と見なせる胸部誘導だけでなく,考え方を工夫することで肢誘導にも“単極”的な視点が導入できる点がポイントです。

要は,心臓の電気活動を周囲12方向から眺めて記述(表現)したものと理解することで,単なる“暗号”的な波形でなく,心電図に意味(解釈)が生まれるということになります。

胸部誘導を左室壁の部位と対応させる方法の理解はマストです。CTを用いて各誘導の位置関係を示した図は見直しておいて下さい。

肢誘導に関しては,少し遠巻きからの“方角”的な感じで左室を中心とする心臓を眺めていると考えればよいと思います。これらの知識を取り入れることで,「前壁」や「下壁」,「側壁」の心筋梗塞の診断における誘導分布が理解できると思います。なお,補助誘導として右側胸部誘導など*1に関しても明示していますので確認しておきましょう。

“視点”に関係した“方向性”という点に関連して,カブレラ形式(配列)No.5212,第47回参照)が紹介できたのも,2024年の収穫でした。個人的にはこの用語自体は,循環器専門医以外ですと,無理に暗記しなくてもよいと思います。しかしながら,内容とも関連する,aVl(-30°)→Ⅰ(0°)→-aVr(+30°)→Ⅱ(+60°)→aVf(+90°)→Ⅲ(+120°)〔→-aVl(+150°)〕の順番は,各誘導が担う角度の把握とともに重要だと思います。

このように,心臓を半周グルッと囲うことの最大の利点は,「ST上昇型心筋梗塞」の診断において,下側壁領域の解剖学的な位置関係が把握しやすくなることでした。副次的に,QRS電気軸の計算にも生かせます。後述する“トントン法”や“トントン法NEO”いずれの手法でも,カブレラ形式(配列)の順番でQRS波の極性変化を連続的に眺めていくテクニックが登場します。この手法は絶対にオススメです。



*1 残る背(側)部誘導に関しては,2025年のどこかのタイミングで取り上げようと思います。

▶いろいろな波形異常

2024年は,“レクチャー系”の回がやや多くなってしまいました。ただ,冒頭に1枚の心電図を取り上げ,診断基準から臨床的側面まで解説するのが,ボクの真骨頂と言えると思っています。2025年はそんな“良さ”が出るようにしたいです。

低電位差No.5232,第56回参照)は,主にQRS波高が小さくて認識しづらくなる病態です。ちなみに,“低電位”ではなく,“低電位差”だと,用語の正しい使い方もここに限らず強調しました。代表的なものでは,肢誘導ですと“5mm基準”,胸部誘導なら“10mm基準”がありました。いずれも「すべての誘導のQRS振幅が~」という文言つきでしたね。

ちょっとしたテクニックとしては,QRS振幅(≒波 高)が最も大きな誘導に着目して,5mmないし10mm (1cm)と比べて下さい。“なんか全体的にQRS波高が小さいな”と思ったら,「低電位差」でないかとチェックする習慣をつければよいと思います。この2つの条件は,感度が低くならないよう“or”(または)でつながざるをえず,現実的には,肢誘導でのみ基準を満たす“QRS voltage discordance”という状態が圧倒的に多いことも思い出して下さい。

ほかに,肢誘導や胸部誘導とともに“上半分(3誘導)”を用いた「Ⅰ+Ⅱ+Ⅲ<15mmまたはV1+V2+V3<30mm」という基準もありました。この辺まで知っておくと,それなりに心電図を頑張って勉強している人の感じが出ます(笑)。また,通常ですと左室肥大の診断基準に用いられるSokolow-Lyon indexを用いた基準(SV1+RV5/6<15mm)も示していますので,可能ならこれも知っておきましょう(余裕があればで結構です)。

ところで,「低電位差」から示唆される病態,すぐに言えますか? 別に暗記する必要なんてないのです。“起電力”自体の低下か,心臓と電極との間に“何か挟まる”…こう考えて2つにわけて論じたフローチャートはよくできていると思いますので,ご確認下さい。

心タンポナーデNo.5247,第63回参照)は,「低電位差」の原稿を書いている途中に,個別に扱おうと決めた内容です。「心タンポナーデ」は,“killer ECG”として絶対に見逃したくない病態の心電図の好例です。心膜(腔)特有の2層構造を“水風船”にたとえて説明したものの,本当はさほど柔らかくない“麻布”であった点が病態を考える上ではダイジ。実際,心血管系インターベンションや心筋梗塞・大動脈解離で血液が流入した場合は一気に“限界”を迎えます。一方,悪性腫瘍やウイルス感染症などゆっくり貯まる場合には,リットル単位の心囊液になることもありえます(Web版解説も要参照)。心電図としては,危機が差しせまる状況下に心電図で洞頻脈や心房細動による頻脈「低電位差」,時に「electrical alternans」などの所見を見た場合,心タンポナーデは真っ先に想定すべき疾患の1つです。

ただ,“一本槍”は危険です。心電図「だけ」を見て云々かんぬんではなく*2,ほかの検査等もふまえ,普段から患者さんを総合的に見るクセをつけておきましょう。実際,救急診療において,心電図のみで心タンポナーデを診断することには感度・特異度面で限界があるのでした。どちらかと言えば,心電図はファースト・インスピレーションを与えるだけという認識が正しく,単独での否定,肯定は避けましょう。何と言っても,心タンポナーデを疑ったら,心エコーを即座に行うか,または依頼しつつ循環器医にコンサルトすることが重要ですよね。

また,“変わり種”としては,Osborn波No.5225,第53回参照)について取り上げたことを覚えていますか? 海外ではもっぱら“ラクダのこぶ”(camel-hump sign)の形容でしたが,我々の感覚では,“釣り針”とか“帽子かけ”とか…その辺に見える気が個人的にはしています。下側壁誘導(Ⅱ,Ⅲ,aVf,V4~V6)を中心とし,QRS波が終わってST部分が始まるまでの部分に“ちょび山”のノッチ(notch)が見られるのが,特徴的な所見でしたね*3。冒頭のサンプル心電図はだいぶ顕著なものを選んだので,目に焼きつけておいて下さいね。

Osborn波は,現在は「J波」〔J(-point)wave〕と総称される波形になるわけですが,これは低体温症を反映する所見の1つでした。体温と心電図が関係しているというのも興味深いです。比較的稀な所見ですが,類似の心電図を呈する電解質異常(高カルシウム血症)や心筋虚血,ちょっと変わった早期再分極など,いくつか鑑別診断に幅が出ると素晴らしいと思います。

最後の“早期再分極”に関しては,「早期再分極症候群」として,そう遠くないうちに解説したいと思いますので,お待ち下さい。もちろん,ここでも心電図だけを深読みして“決め打ち”せず総合的な臨床判断を心がけるようにして下さい。

ST変化においては,王道の「虚血性心疾患」を中心に今後丁寧に扱っていくべきテーマです。ただ,2024年は一度だけ急性心膜炎No.5208,第45回参照)によるST変化として取り上げました。臨床的に認められる頻度は低く,もちろん,心電図だけで診断する疾患でもない点に注意して,見直してみて下さい。

急性心膜炎の心電図は,本来4段階にわけて経時的な変化が論じられますが,中でもStage1を中心に解説しています。

まずは,「ST上昇」が“広汎”に認められる―具体的には,“右側”の要素を持つaVr,V1(時にⅢ)“以外”ととらえるのがミソでした。この点は,大半の心筋梗塞とは大きく異なる特徴です*4。ほかにもほぼ同一の誘導群で見られる「PR低下」も重要でしょうか。QRS波を挟んで反対側同士で“上がり”と“下がり”が見られるととらえて下さい。さらには,aVrで認められる“knuckle sign”(ナックル・サイン),感度は低いが特異度は高い「Spodick徴候」(Spodick's sign)等…心電図好きにはたまらない所見が急性心膜炎では目白押しです。

一緒に取り上げた“ST-T比”はかなりマニアックですが,頭の片隅に置いておくとよいでしょう。注目すべきは側壁誘導(特にV6)で,ST部分に比してT波が上昇しない(むしろ減高)する結果と考えて下さい。なお,「PR低下」や「ST-T比」などのキー所見を読む上で重要な“どこに対して”という基準を明確に示した図も自信作ですので,この回は“永久保存版”,いや勝手に“神回”と呼ばせて下さい!



*2 試験対策ばかりで心電図を勉強している人が陥りやすい点だと思います。

*3 心電図検定などの問題集でしか目にしたことがない人も多かったかもしれませんが,サンプルは実例です。

*4 “concave vs. convex”というわかりづらい名称の形状の違いもポイントでした。実臨床でこれらの知識がすべて適用できるわけではないですが,考え方のセオリーとして知っておくべきです。

▶“デンキジク”(QRS電気軸)をきわめろ

2024年は,QRS電気軸に関して取り上げることが多くありました。心臓の周期的な電気的興奮を,“矢印”(ベクトル)1本で表そうという大胆な概念です。この概念を苦手にする人も少なくないと見聞きしており,きちんと解説したいと常日頃思っています。ある程度慣れてしまったら,別に難しくはありませんが…。電気軸を考える平面は,胸部X線と同じ前額断(冠状断)です。この平面には肢誘導系が“鎮座”しており,QRS電気軸を求める第一歩は,肢誘導波形の“向き”に着目することです。

正常軸No.5204,第43回参照)では,基本事項のおさらい後,ⅠとⅡ(またはaVf)という2~3箇所の誘導でのQRS波の“向き”(極性)に着目した定性的判定法について述べています。これに関してはすべての人が知っておくべき知識です。「正常軸」というのは,基本的にⅠ,Ⅱ,aVfがすべて陽性になるパターンのことでしたね。これがいわばQRS波の“正常な向き”になります。

ボク自身は普段Ⅱを用いることが多いですが,aVfのほうで考えた場合,“正常ゾーン”がどう変わるのでしたか?前額断上に展開される“円座標”*5での微妙な違いを見直しておきましょう。なお,「-30°~0°」にQRS電気軸が存在するとき,「“軽度の”左軸偏位」と呼んだことも復習しておいて下さい。

また,何と言っても,自動計測に頼らず自分の頭だけでQRS電気軸を求める一連の手法が丁寧に解説できたという達成感が2024年にはありました。QRS電気軸の求め方①トントン法No.5219,第50回参照)とQRS電気軸の求め方②トントン法No.5221,第51回参照)では,自分でQRS電気軸を求める際の基本戦略となる“トントン法”について解説しました。まず,心筋片モデルを用いた電気刺激の進み方と電気軸の関係性を理解しましょう。同方向の“R型”や逆方向の“QS型”よりも,陽性波の高さと陰性波の深さが釣り合う“トントン”なQRS波を,ボクは重要視するのでした*6。ズバリ“トントン・ポイント”(TP)と呼ぶんでしたよね。

肢誘導の6つの中にTPがある場合,QRS電気軸はそれと直交する2方向のいずれかだというのがミソです。QRS電気軸の求め方①トントン法では,この説明に注力しています。最終的に“トントン”な誘導に直交する方向のうち,ⅠやaVfなどの波形も矛盾なく説明できるほうが求める電気軸になります。

QRS電気軸の求め方②トントン法では,4枚の心電図を使って演習問題をしました。肢誘導の波形を睨み,“円座標”におけるTPのポジションや直交方向が自分で図示できれば簡単にクリアできるでしょう。肢誘導の6つの中にTPがない場合にも,“mostトントン”はどこか考えて同じ風にすれば,多少の誤差は出ても一応の数値を出すことはできます。このトントン法は是非ともマスターあれ。

せっかくこの手法を覚えても,目の前の心電図で“トントン誘導”がないことに絶望したことをキッカケに生まれたのが“トントン法NEO”No.5239,第59回,およびNo.5241,第60回参照)になります。ネオ(NEO)って,“new version”ということですからね。肢誘導に着目し,カブレラ形式(配列)の順にQRS波の“向き”に注目するまでは共通。ここでの連続的な極性変化に着目し,QRS波が「上→下」ないし「下→上」向きに変化する箇所に注目して下さい。きっと,そこにTPはあるはず!…と考えるのです。こうやって“挟む”ことから始めて下さい。

TPを挟めたら,次にすべきは両端の比較です。上向き・下向きのQRS波を比べます。露骨な差があるなら,中間よりも“トントン”に近いほうをTPと見立てましょう(10°単位)。これこそ“ネオ”(NEO)の真髄です。両端の“トントン”な具合が同程度なら,あまり深くは考えずに“ちょうど中間”がTPと考えてOKです。以降のプロセスは“トントン法”と変わりません!

秘技!QRS電気軸推定【後編】No.5241,第60回参照)の最後に示した,Dr.ヒロ流! QRS電気軸の推定フローチャートこそ,自分の頭の中だけで完遂できるオリジナル・メソッド(発明品)です。皆さん,どうぞ使って下さい。ちなみに「不定軸」という言葉を正しく使ってほしいと述べたこともよく思い出してほしいです。

では,前編はこの辺で終わりにしましょう。後編も振り返りに関するダイジェスト解説を行いますので,楽しみにお待ち下さい。では,また!



*5 高校数学で登場する基本レベルの「単位円」と「極座標」です。角度の符合のつけ方だけ異なることに注意。

*6 ケント束のアブレーション(WPW症候群)や肺静脈隔離術(心房細動)で基本となる心内心電図の解釈にヒントを得ました。

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