著: | 田中 逸(聖マリアンナ医科大学 代謝・内分泌内科 教授) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 196頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2018年08月31日 |
ISBN: | 978-4-7849-5398-1 |
版数: | 第2版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
SECTION 1 肥満と肥満症
1 ▶ 肥満と肥満
1 ─ 肥満の現状
2 ─ 肥満の評価方法
3 ─ 二次性肥満と体液貯留に注意
4 ─ 肥満症の診断
2 ▶ 肥満の科学
1 ─ 肥満の原因は何
2 ─ 脂肪細胞は内分泌細胞でもある
3 ─ 褐色脂肪細胞とは
3 ▶ 肥満に対するアプローチ
1 ─ まず問題点を把握する
2 ─ 食事エネルギー量と栄養バランスの設定
3 ─ 賢い食べ方
4 ─ 運動療法のとらえ方
SECTION 2 糖尿病と耐糖能異常
1 ▶ 糖尿病の基礎知識
1 ─ 血糖調節機序を考える
2 ─ 糖尿病の発症メカニズム
3 ─ 日本人の糖尿病の特徴
4 ─ 糖毒性と合併症の原因を考える
2 ▶ 糖尿病の診断と治療
1 ─ 糖尿病の診断とスクリーニング
2 ─ 高血糖に対するアプローチ
SECTION 3 脂質異常症
1 ▶ 中性脂肪とコレステロールの代謝
1 ─ 中性脂肪の基礎知識
2 ─ コレステロールの基礎知識
2 ▶ リポ蛋白の基礎知識
1 ─ リポ蛋白とは
2 ─ リポ蛋白の代謝早わかり
3 ▶ 脂質異常症の病態
1 ─ 脂質異常症の診断
2 ─ 脂質異常症の分類
3 ─ 高中性脂肪血症の病態
4 ─ 高コレステロール血症の病態
4 ▶ 脂質異常症に対するアプローチ
1 ─ 問診と身体所見
2 ─ 動脈硬化症のリスク評価と管理目標
3 ─ 生活習慣改善のポイント
SECTION 4 高尿酸血症と痛風
1 ▶ 尿酸代謝の基礎知識
1 ─ 尿酸とは何か
2 ─ 尿酸代謝の基礎知識
3 ─ 高尿酸血症の原因
4 ─ 低尿酸血症の原因と注意点
2 ▶ 痛風発作と痛風腎
1 ─ 尿酸結晶の析出
2 ─ 痛風発作の原因と特徴
3 ─ 痛風発作より怖い痛風腎
3 ▶ 高尿酸血症に対するアプローチ
1 ─ 高尿酸血症に関わる生活習慣
2 ─ 尿酸を上昇させない生活指導
SECTION 5 高血圧症
1 ▶ 血圧の基礎知識
1 ─ 血圧の意味
2 ─ 血圧の調節
2 ▶ 高血圧症の分類と原因
1 ─ 測定と診断
2 ─ 二次性高血圧と本態性高血圧
3 ─ 生活習慣との関わり
3 ▶ 高血圧に対するアプローチ
1 ─ 問診上のポイント
2 ─ 血圧状況の評価と目標
3 ─ 生活習慣改善のポイント
SECTION 6 動脈硬化症
1 ▶ 動脈硬化で最も問題になるタイプは…
1 ─ 動脈硬化には4 つのタイプがある
2 ─ 粥状動脈硬化の形成
3 ─ 粥状動脈硬化と急性冠症候群
2 ▶ 動脈硬化症の早期診断
1 ─ 健診やドックでの検査法
2 ─ 頸動脈超音波検査
3 ▶ 動脈硬化症のリスクと管理
1 ─ メタボリックシンドロームへの対処
2 ─ メタボリックシンドローム以外のリスク管理
質疑応答
Q 1 BMIの理想値
Q 2 脂肪肝になりやすい体質
Q 3 脂肪肝がインスリン抵抗性をきたす機序
Q 4 飲酒は脂肪肝の原因になるか
Q 5 脂肪筋と霜降り
Q 6 脂肪肝と脂肪筋の変化
Q 7 臍部の内臓脂肪面積で内臓脂肪量を評価できるか
Q 8 ダイエットとリバウンドの繰り返し
Q 9 減量時に筋肉量も減少する理由と対策
Q10 肥満者の減量目標
Q11 地中海式ダイエットは日本人にも有効か
Q12 玄米以外の全粒穀物は何が有用か
Q13 肥満者に対する軽度糖質制限食の効果
Q14 高齢者のサルコペニア
Q15 肥満児に対するアプローチ
Q16 睡眠時無呼吸症候群の発見と対処
Q17 食後血糖の正常値
Q18 g-ブドウ糖負荷試験の妥当性
Q19 g-ブドウ糖負荷試験の副作用
Q20 日常生活でも反応性低血糖を起こすことがある
Q21 インスリンの正常値
Q22 HbA1cに影響する因子
Q23 HbA1cの利点と欠点
Q24 グリコアルブミン(GA)とは
Q25 1,5-AGとは
Q26 無自覚性低血糖とは
Q27 尿糖検査のポイントとコツ
Q28 空腹時血糖のみ高値
Q29 血糖正常者にみられる尿ケトン体陽性
Q30 糖尿病家族歴陽性者の検査
Q31 なぜ肥満がなくても妊娠糖尿病になるのか
Q32 妊娠糖尿病から糖尿病への進展
Q33 1日4回以上の分割食
Q34 どうしてもおやつを食べたいときは何がよいか
Q35 朝食前の運動は血糖改善に有効か
Q36 食後の中性脂肪上昇
Q37 急激な中性脂肪の低下
Q38 コレステロール制限食の効果
Q39 超悪玉のコレステロール
Q40 HDLコレステロールのみ低値
Q41 トランス型脂肪酸を制限する必要はないのか
Q42 脂質異常症の薬剤はいつまで
Q43 LDLコレステロールの下限値
Q44 尿酸値の変動幅
Q45 正常尿酸値と痛風発作
Q46 プリン体の過剰摂取
Q47 高尿酸血症者の紹介
Q48 痛風腎のチェック
Q49 食塩感受性と血圧
Q50 DASH食の効果
Q51 海水塩や岩塩の効果
Q52 食食後の一時的な血圧低下
Q53 起立性低血圧の原因
Q54 血圧の変動と評価
Q55時間血圧測定の有用性
Q56 脳ドックの目的
Q57 CAVI検査とABI検査
Q58 無痛性心筋虚血
Q59 脳卒中の簡易診断法
Q60 魚油のサプリメントは動脈硬化症の予防に有効か
母校の滋賀医科大学を卒業以来,内科医の仕事に就いて30年以上が経過した。
今も糖尿病の患者さんを中心に多くの方を診させて頂いている。この30年間で食事,運動,薬物の進歩に関する多くのエビデンスが国内外から発表され,日本の糖尿病診療のレベルは確実に上がってきている。しかし,1人の臨床医として感じるのは,確かに血糖コントロールが良くなった方も多いが,良くならない方も少なくなく,通院を中断してしまう方も少なくないことである。私たちはともすれば統計データの平均値の動きに目を奪われがちである。院内統計で通院患者さんの平均BMIが昨年より0.5kg/m2低下した,厚生労働省の調査で血圧の平均値が3mmHg低下した,などである。製薬会社の方が,「大規模研究の結果ではA薬のHbA1c低下度は平均0.5%ですが,当社のB薬は0.8%でした」などと説明される。しかし,平均値±標準偏差の変動はあくまで集団全体の結果であって,集団を構成する個人の状況を把握できるものではないし,個人の指導や治療を考える際の大きな拠り所になるわけではない。
小学生から高校生までを対象とした新体力テストが1999年度からスタートした。成績は徐々に上昇してきている。しかし,よく調べると野球やサッカーなどの部活やクラブチームで小さいときから運動を続けている生徒のデータが上昇し,この影響で全体の平均値が良くなっただけで,何も運動していない生徒のデータは低いままであった。すなわち,運動する生徒としない生徒の二極化が進み,生徒間の体力格差が広がってきたということである。それゆえ平均値の推移だけを見て体力が向上してきたと喜ぶのは早計であり,運動しない生徒に対する指導をもっと考える必要がある。同様に現在の日本では,日々の食事や運動に注意している方と,まったく気にしていない方との二極化が進行しているように感じられる。当然,医師や医療スタッフが真剣に介入すべきは後者である。そして私たちが相手にするのは眼前の個人であって集団ではない。1人の方に向き合う際には平均値の情報はあまり役に立たない。個別的にとらえ,個別的な説明や指導,治療を考えることが大切である。
2003年に「セミナー生活習慣病」を発刊して以来15年が経過した。この間に全国各地で医師や医療スタッフの皆様にお話しさせて頂く機会に恵まれ,多くの方から本書に対するご意見やご質問を頂戴した。筆者にとっては大きな喜びであり,5年ごとの改訂版の刊行に向けて背中を押して頂いたと受け止めている。今回,2013年に刊行した「新セミナー生活習慣病」の改訂にあたって,改めて内容を見直し,残すべき項目は残し,変更すべき箇所は追加,修正を加えた。個別的で適切なアドバイスや指導を行うには私たちの知識や考え方を今一度,頭の中で整理し統合的に理解しておく必要がある。今回はこの点に留意して改訂版を作成したつもりである。本書が多くの方々にとって少しでもお役に立てればと願っている。
2018年7月
田中 逸