編著: | 大内憲明(東北大学 名誉教授) |
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編著: | 鈴木昭彦(東北医科薬科大学 教授) |
判型: | B5判 |
頁数: | 202頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2022年03月06日 |
ISBN: | 978-4-7849-4222-0 |
版数: | 第8版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
改訂第8版刊行にあたって
わが国で初めてマンモグラフィ検診が50歳以上を対象に導入されたことに合わせて,第1版が2000年5月25日に刊行された。当初はフィルムマンモグラフィを残しつつもデジタル化が進み(第2版),検診対象が40歳代までに拡大された2004年度には第3版が刊行され,2005-2006年度の厚生労働省「健康フロンティア戦略~マンモグラフィ緊急整備事業~」において,デジタルマンモグラフィによる標準化が図られた際には,その手引書として活用された。
2007年にがん対策基本法が施行され,第1期がん対策推進基本計画が策定された。がん検診の受診率50%以上を目標とし,すべての市町村において精度管理および事業評価とともに,科学的根拠に基づくがん検診が実施されることを目標とした。その後,厚生労働省から提出された「がん検診事業の評価に関する委員会報告書」では,がん検診のアウトカムを死亡率減少としつつ,その達成のために「技術・体制的指標」「プロセス指標」が設定され,これらの指標を盛り込んだのが2008年刊行の第4版である。その後もマンモグラフィ検診の精度管理に関する撮影および読影講習会の改定や機種更新情報などを追加した(第5版,2011年)。
2012年からの第2期基本計画では,がん検診の重要性が改めて明記され,科学的根拠に基づくがん検診の実施が基本的施策となり,2012年5月に厚生労働省「がん検診のあり方に関する検討会」が発足した。2015年9月に「がん検診のあり方に関する検討会中間報告書~乳がん及び胃がん検診の検診項目等について~」で乳がん検診については「マンモグラフィによる検診を原則とすること」が提言され,2016年度の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」に明記された。これを受けて第6版には,「乳がん検診のためのチェックリスト」および「仕様書に明記すべき必要最低限の精度管理項目」を掲載した。
一方,若年女性におけるマンモグラフィ検診の精度は十分でなく,限界が指摘されている。40歳代女性を対象に,がん対策のための戦略研究「超音波検査による乳がん検診の有効性を検証する比較試験(J-START)」が2006年度から開始され,プライマリエンドポイント結果が2016年にLancetに公開された。マンモグラフィと超音波検査を併用した場合,マンモグラフィ単独に比べて,感度およびがん発見率が優れることが示されたが,死亡率減少効果はまだ検証されていない。したがって,乳がん検診の原則はマンモグラフィであることに変わりはない。このことから,2020年の第7版では「マンモグラフィ検診の偽陰性と高濃度乳房問題」を加えた。
2021年10月1日,「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」一部改正が発出された。この改正は厚生労働省「がん検診のあり方に関する検討会」において,2018年5月から計6回にわたり検討され2020年3月に報告された「議論の中間整理」に基づくものである。特に乳がん検診に関する項目が多く盛り込まれていることから,このたびの第8版刊行に至った。
主な改正点は,診療放射線技師法施行規則の省令改正・施行に伴い医師の立ち会いなく乳房X線検査の実施が可能となったこと,がん予防重点健康教育として従来の自己触診から乳房を意識する生活習慣(ブレスト・アウェアネス)へ改められたこと,検診受診を「特に推奨する者」を40~69歳としたこと,乳房X線検査における過去画像の比較読影が明記されたことが挙げられる。一方,国民の4~6割が職域においてがん検診を受けていることから,職域についても市町村事業と等しく,プロセス指標とチェックリスト等の遵守を求めることが提起された。国民すべてが適切な乳がん検診を受けられるよう動き出したといえる。
初版刊行から20年を経て,マンモグラフィによる乳がん検診は,わが国において標準的な検診として定着した。最近ではAI画像支援診断など,乳がん診療は格段の進歩を遂げている。乳がん検診を適正に切り替えることによって,かくも診療レベルが向上したことは多くの関係者の実感であろう。
進化し続ける乳がん検診,そのあり方は科学技術の進歩のみでなく検診を受ける人の行動にも大きく影響を与える。本書が乳がん患者さんのQOL向上および死亡率減少に結びつくことを願っている。