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病院経営の教科書 〈数値と事例で見る中小病院の生き残り戦略〉

「選ばれる病院」になるための経営戦略

定価:5,060円
(本体4,600円+税)

改訂中です

立ち読み

監修: 大石佳能子(株式会社メディヴァ・コンサルティング事業部)
著: 小松大介(株式会社メディヴァ・コンサルティング事業部)
判型: B5変型判
頁数: 330頁
装丁: カラー
発行日: 2015年10月21日
ISBN: 978-4-7849-4510-8
版数: 第1版
付録: -

  「もう駄目だ! お金が底をつく」「スタッフが大量に離職してしまった」「古い病棟を建て替えたいが、財務が悪化して手が打てない」……ぎりぎりの経営を強いられている中小病院をサポートし、その復活の過程に携わってきた著者の体験から生まれた実践的テキスト。経営改善のノウハウがこの一冊に詰まっています 

  病院経営を取り巻く環境を、カラーグラフで分かりやすく視覚化。独自のデータ分析により、安定経営の指標となる数値を明示しました€

  中小病院が生き残るための戦略を、豊富な事例とともに解説。機能分化が進む今後の病院経営のモデルを提示しました

目次

第1章 病院経営を取り巻く環境
1. 病院経営の鍵となる指標
1.1 病床稼働率は平均80%強
病床稼働率と病床数の不思議な関係 採算ラインを維持するには
1.2 初診率は12%
初診率からわかること 診療科別の初診率
1.3 入院ルートは外来50%・救急25%・紹介25%
入院ルートの分析からわかること 外来経由の入院患者を増やすには 救急経由の入院患者を増やすには 紹介経由の入院患者を増やすには
1.4 外来診療圏は5 km、入院診療圏は10 km
診療圏調査の基本的な考え方 急性期病院・ケアミックス病院における診療圏の考え方 専門病院における診療圏の考え方

2. 病院財務の概観
2.1 経常利益率5%、借入金は売上の3分の1
貸借対照表の見方 損益計算書の見方
2.2 病床稼働率の損益分岐点は80%
入院診療の損益分岐点の算出法 病院種類・病床規模別に見た入院損益分岐点
2.3 外来患者数の損益分岐点は病床の1.5倍
外来診療の損益分岐点の算出法 病院種類別に見た外来損益分岐点 病床規模別に見た外来損益分岐点
2.4 借入金は売上の1.5倍が限界
病院経営は先行投資型ビジネス 借入金の限界シミュレーション

3. 病院経営のマクロ統計
3.1 民間病院の2割は赤字
「病院運営実態分析調査」に見る赤字病院の比率 「病院経営管理指標」に見る赤字病院の比率
3.2 リハビリ・手術・DPCは年率10%の伸び
入院医療費の動向 入院外医療費の動向
3.3 全病床の7割が診療報酬包括化病床に
出来高払いから包括払いへ 包括払いの基本的な考え方 包括化病院・病床の広がり 診療報酬包括化が病院経営に与えるインパクト
3.4 医療費増加率は患者増加率を3割上回る
医療費増加と患者数の関係 診療報酬が医療費に与える影響 今後10年間、引き続き医療密度を上げる努力が求められる 2025年以降、本当のマイナス改定が始まる

4. 人事・労務の実態
4.1年間で勤務医2割増、看護師4割増、PT 2.7倍
病院の従事者数の推移 医療専門職の働き方の変化 職種別の供給見通し
4.2 医師当たり患者数は10年間で2 3割減
医師の需給見通し 看護師の需給見通し
4.3 医師の年収は10年間で11%ダウン
医療従事者の給与水準 医師の給与が下がっている理由
4.4 医療職の離職率は平均15%
医療職の人材流動化 離職対策から人材戦略へ

5. 設備投資の考え方
5.1 CTは2年、MRIは4年で採算が合う
CT・MRIの導入の現状 高額検査機器の採算性
5.2 病院の耐震化はまだ67%
耐震化を進めるための取り組み
5.3 病院建設単価は2年で23%上昇
建設単価の推移 建設コスト上昇が病院経営に与えるインパクト

6. 競争・連携相手の動きを読む
6.1 病院数は20年で13%減(50床未満は45%減)
規模別に見た病院数の推移 種類別に見た病院数の推移
6.2 一般病床の55%がDPC病床に
DPC/PDPS制度のポイント 拡大するDPC病床 DPC制度と急性期病院の将来
6.3 病院の開設・廃止は10年間で半減
病院の開設・廃止の動向 最近10年間の傾向分析 病院の新規参入・撤退をどう考えるか

7. 患者の構造変化
7.1 入院受療率は30年で0.3%増(外来受療率は横ばい)
年齢別の受療率 延べ患者数の推移 高齢者の受療率の推移 傷病別受療率の推移 受療率から見た患者動向の変化(まとめ)
7.2 主要死因の死亡率は各世代で減少中
疾病構造の変化と医療政策 世代別に見た主要死因の死亡率
7.3 前立腺・肺・肝臓がんの生存率は 10年間で3割以上改善
部位別・年齢別がん罹患数 がんの5年生存率

8. 人口動態と国民医療費
8.1 高齢化によって看取り場所が40万人不足
世代間の支え合い構造の崩壊 独居高齢者の増加 看取り数の急増
8.2 認知症高齢者は15年間で7割増
認知症患者数の推移 認知症高齢者の受け皿 認知症ケアの社会的資源をどう確保するか
8.3 出生数は激減したが1施設当たりでは増加中
少子化の現状 1施設当たりの出生数はむしろ増加
8.4 医療費の40%は税金から
医療費の財源 国の予算に占める医療費の動向


第2章 病院経営の戦略
1. 典型的な経営戦略失敗のプロセス
経営陣の慢心(甘い見込み) エース医師・看護師の退職 人心荒廃と設備の老朽化 無理な設備投資 キャッシュフローの行き詰まり

2. 経営戦略の基本類型
経営戦略とは何か 差別化戦略 コスト・リーダーシップ戦略 集中戦略

3. 集中戦略としての機能分化とその効果
二次医療圏別の機能分化指数 機能分化が経営状況に及ぼす影響

4. 経営戦略策定の基本的なフレームワーク
3C分析 SWOT分析 STP-4P

5. 経営を成功に導くための戦略構築の視点
自院が置かれている状況を客観的に把握する 患者ニーズと制度の流れを読む いくつかの戦略オプションを構築する 投資対効果・費用対効果・リスクを把握する 経営者自身が信じ、やりきることができる戦略を選択する


第3章 病院経営の実践
1. 経営戦略
1.1 高齢者病院から産婦人科病院への転換
産婦人科への集中戦略を決意 経営陣の本気度がスタッフの意識を変えた 5年かけて全病棟を転換
1.2 効果的な新棟建設計画
市場ニーズを捉えた明確な戦略 戦略に基づいた、メリハリのある設計方針 戦略を実現するための人材・業務ノウハウ 無理のない確実で余裕のある資金計画 建設計画の実務を担う人材の確保
1.3 診療報酬制度の方向性を見通す
平成26年度診療報酬改定の基本的な考え方 在宅復帰率、重症度・医療看護必要度の改定が意味するもの
1.4 多様な経営戦略
水平展開によるエリア拡大戦略 垂直統合による地域ドミナント戦略 介護・住宅事業への進出 超大型医療機器への投資による差別化戦略 海外への事業展開 医療技術のノウハウ化とフランチャイズモデル

2. ガバナンス
2.1 ガバナンスを改革することの重要性
兄弟喧嘩がガバナンスの奪い合いに発展したケース 創業者から息子達への権限委譲がスムーズでなかったケース 経営不振により第三者に病院運営を乗っ取られかけたケース ガバナンスの重要性
2.2 理事会・社員総会の運営
手続きを怠ると後でトラブルのもとに

3. 財務
3.1 損益計算書と貸借対照表
財務諸表の確認を怠った事例 損益計算書の見るべきポイント 貸借対照表の見るべきポイント 時系列比較とベンチマーク比較
3.2 KPIによる経営管理
KPIを設定することの意味 KPIを設計する際の考え方 KPIの運用例
3.3 銀行取引のコツ
医療機関向け融資というビジネス 銀行の支援を引き出すにはコツがある
3.4 資金調達の実際
補助金・助成金 融資 リース 診療報酬債権の流動化 資産売却・不動産活用 病院債
3.5 経営再建の手法
返済のリスケジュール、土地の売却 メインバンクによる金融支援 民事再生 経営再建の手法 財務状況に合わせた再建手法を選択する

4. 組織
4.1 戦うチームへの変貌
誰も責任を取らず、業務が停滞してしまった 院長の意識改革からスタート 経営体制の改革 組織の分権化 経営状況の開示
4.2 組織の骨格作り
組織が組織として機能していない病院の事例 部署ごとの責任を明確にし、会議で確認する 組織図の階層が意味するもの 組織作りのポイント
4.3 組織文化の改革
拡大移転したものの、伸び悩んでいるケアミックス病院の事例 理念・規範・戦略を再定義する まずは幹部職員の考えを統一する 次にスタッフへの浸透を図る 改革の効果は非常にゆっくりと現れる

5. マーケティング
5.1 マーケティングにおける現状把握
マーケティングの基本は現状把握から 外来患者の受診行動 入院患者の受診行動 健診受診者・在宅患者の受診行動 マーケティングデータの取り方
5.2 マーケティングの実務
広告宣伝活動 広報活動 院内における広告・広報活動 患者へのマーケティング活動 連携先・事業所へのマーケティング活動 従業員向けマーケティング活動 患者の受診行動プロセスとマーケティング活動
5.3 Webマーケティングの効果
webマーケティングの成功例と失敗例 webマーケティングの基本的な考え方
5.4 自己負担の価格
自己負担の差が集患に影響した事例 保険外自己負担の実態 医療機関の収益と患者自己負担の関係

6. 人事・労務
6.1 問題スタッフへの対応
問題スタッフを放置せず、早期に対応を検討する 就業規則と雇用契約を確認する 本人への指導は人格否定にならないよう、問題行動に焦点を当てる 指導内容は書面で残し、本人の言い分も記録する 解決を急がず、本人と将来の見通しを共有し、納得してもらう
6.2 採用プロセスの強化
採用を強化するための現状分析 採用プロセスにマーケティングの考え方を導入する 今いるスタッフを大事にすることが、採用強化につながる
6.3 人事考課の基礎
人事考課制度の構築 人事考課制度の導入と運用上の注意

7. 業務
7.1 会議の運営
組織が動かない原因は会議にあった 会議の運営を改善する 上手な会議運営は経営効率を上げる
7.2 購買管理の実践
交渉の“カード”を用意する 値引き交渉のポイント
7.3 定期メンテナンスと保守計画
医療機器の保守契約 電子カルテ・PACSの保守契約 施設設備のメンテナンス

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序文

『診療所経営の教科書』に続いて、本書を書き下ろしました。

前著では、「診療所の経営は、一昔前はどんぶり勘定でも大丈夫でした」と書きましたが、本書の読者である中小病院の経営者の方々は、かなり前から「どんぶり」ではない厳しい経営を経験されてきたと思います。€

中小病院の経営は、昨今さらに厳しさを増しています。2014年の診療報酬改定で7対1入院基本料が見直され、重症度、医療・看護必要度、在宅復帰率などの要件が厳しくなりました。7対1を死守するために、重症患者を集める、地域包括ケア病棟を作るなどの対策を行い、精一杯努力してきた病院は多いのではないでしょうか。€

病院経営が厳しくなった背景には、少子高齢化と国民皆保険を守るための財源の不足があります。2014年、医療費の総額は様々な抑制策にもかかわらず約2%伸び、初めて40兆円を超えました。国民1人当たりでは、75歳以上の後期高齢者が約93万円、75歳未満が21万円です。今後、急速に高齢化が進む中、医療費はますます増えると考えられます。€

医療費を都道府県別で見ると、西日本が東日本より高い「西高東低」の傾向が続いています。高齢者が多いというだけでなく、病床が多い県は医療費も高い傾向にあり、供給が需要を作っているのではないか、と考えられています。これに対し国は、医療の提供体制を再構築し、医療費の抑制を進めようとしています。この流れを中小病院の経営者としてどう乗り切っていくのかが、今問われているのではないでしょうか。€

当社は、多くの中小病院の現場で、経営者の方々と一緒に経営改善・再生に取り組んでいますが、昨今、支援先の病院や近隣の病院の稼働率低下が目立つようになりました。その原因としては、多くの要因が複合的に作用していると考えられます。€

重症度、医療・看護必要度の要件が定着し、現場が従来受けていた患者さんを受けなくなったこと。競合する病院が地域包括ケア病棟を作り、院内で完結し始めたこと。介護保険の改定により、介護施設での看取りが強く要求されるようになり、施設からの搬送が減ったこと。末期患者、重症認知症から肺炎までも在宅で治療することができる在宅療養支援診療所が育ってきたこと。€

こういう状況の中で、どう対策を打っていくのか、ということのエッセンスをこの本に収めました。短く言うと、「地域でどうすれば選ばれる病院になるか」という戦略を、もう一度ファクトから見直すことと、それに基づいたコアプロセスの再構築、それを実行に移すことができる組織作りです。€

消化器外科が得意だと思っていても、地域にもっと得意な病院があれば、他に生き残る分野を探す必要があります。実際、そうやって得意分野を分け合っている地域の方が、各病院の利益率は上がっています。積極的な営業や、他の医療機関・施設との連携を越えた提携関係の構築、在宅復帰に向けて患者さんの役に立つ退院調整など、必要なプロセスも変わってきます。そして何よりも、モチベーションの高い強い組織を作ることが欠かせません。€

これらは、診療報酬制度をかい潜るような収益改善策(たとえば7対1の基準を満たすために心電図モニターを増やす)とは違い、自院の立ち位置と組織を根本的に見直す作業になります。€

全病院の7割は200床未満の中小病院であり、しかもその85%は民間病院です。何代にもわたって、地域医療の担い手として貢献してきた歴史があるのです。同じく中小病院の11%を占める公立病院も、行政によって作られた地域医療の担い手でした。€

本書の英語タイトルには、“Community Hospitals”の文字を入れました。単に規模を表す「中小病院」“Mid to Small-size Hospitals”ではなく、また大学病院と対比した「市中病院」でもなく、中小病院が本来果たすべき機能としての“Community Hospital”について書いたつもりです。€

中小病院を取り巻く環境が益々厳しくなっている中、地域医療において立ち位置を確保し、今後も生き残るための体制・プロセスの再構築に向けて、この本が一助となることを願っています。


2015年9月
大石佳能子

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レビュー

【書評】病院経営の羅針盤となるテキスト

渡辺明良氏(学校法人聖路加国際大学 法人事務局長)
本書は、大きな環境変化の渦中にある病院経営において、その羅針盤となるテキストである。

本書の最大の特徴は、データに考察が加味された【情報】の上に、実践と行動に裏打ちされた【事例】が構成されている点である。これは、データ分析に偏りがちな従来の病院経営コンサルティングとは一線を画す、“Realistic Consulting”とでもいうべき、病院経営手法の新たな幕開けを実感させる。この“Realistic Consulting”こそ、筆者らが十余年にわたり実践し、実績を積んできたものであり、その集大成が本書といえよう。

第1章では、マクロ的見地から病院経営を取り巻く環境について考察している。各種統計情報を整理・分析してわかりやすくグラフ化しており、自院の経営環境分析を行う際に活用できる内容となっている。

第2章では病院経営の戦略について、経営学やマーケティングの視点から述べているが、一般的な論説にとどまらず、実践につながる手法としてまとめられている。なかでも、集中戦略としての機能分化とその効果に関する考察は、機能分化が進展する今後の病院経営において、戦略立案上の重要な示唆を与えるものとなっている。

第3章では病院経営の実践について、数々の事例が紹介されている。特に経営戦略やガバナンスは、病院が社会的責任を果たす上で重要な視点であり、多くの病院にとって参考となるだろう。また、適正な利益を確保して病院経営を継続するための財務の実際についても、詳細な事例をもとに解説している。さらに、病院の効率的・効果的運営を行うために重要な組織、マーケティング、人事・労務、業務管理について、実務的なポイントがまとめられている。

本書が病院経営のテキストとして、多くの病院の実践につながることを期待してやまない。

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