浜松医科大学医学部附属病院(浜松医大病院)など一部病院が取り組む「病院フォーミュラリ」に注目が集まっている。中央社会保険医療協議会(中医協)も2020年度診療報酬改定に向けた議論の中で「フォーミュラリ」を取り上げ、先進事例をもとに意見交換を行った。「医療機関等において医学的妥当性や経済性等を踏まえて作成された医薬品の使用方針」と一般的に定義されるフォーミュラリの策定にはどのような意義があるのか。浜松医大病院で病院フォーミュラリを主導する川上純一教授・薬剤部長に話を聞いた。
川上 私自身は2006年度に浜松医大病院へ現職として赴任しました。それ以前からも厚生労働科学研究班などで医薬品の合理的使用や病院フォーミュラリに関わる研究に携わってきましたが、まだまだ現場で使用される医薬品の評価や選択には課題があるという思いがあり、浜松医大病院における採用および削除医薬品の取扱内規(採用基準や使用指針)を薬剤管理委員会で検討して定め、毎年度見直しながら薬剤管理を進めてきました。
その後、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進や医薬品の適正使用は国でも大きな課題となり、2016年度の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)で初めて「生活習慣病治療薬等の処方の在り方等について本年度より検討を開始」と「処方の在り方」について問題提起がされました。それまで医師の処方は「プロフェッショナルオートノミー」に関わる部分で立ち入りにくい領域でしたが、経済性を含めた医薬品の合理的使用の観点から議論されるようになり、その流れの中で2020年度診療報酬改定に向けた中医協の検討項目にフォーミュラリへの対応が盛り込まれるようになったと理解しています。
我々が現場に向けて「フォーミュラリ」という言葉を使い始めたのはここ数年です。病院の取扱内規の「使用指針の基準」では「標準的な薬物治療で対応できる患者においては、採用薬の治療効果や注意事項を事前に評価しておくことで、簡便かつ効率的な治療を行うことができる。院内において採用薬を基本とした標準的な医薬品の選択基準や投与指針を事前に定めておくことにより、標準的な薬物治療では対応できない一部の患者において必要かつ有用な薬物治療を吟味することが可能になる。この『フォーミュラリ』の作成は経済性のみではなく、質と安全性の高い薬物治療を効率的に実施する上で必要不可欠なものである」と記載しています。その具体策として「同種同効薬が複数存在する領域においては、科学的根拠並びに経済性を併せ持つ後発医薬品を中核としたフォーミュラリを必要に応じて作成する」という方針を示しました。
川上 フォーミュラリの根本にある考え方を理解していただくことで、先生方にも受け入れられるようになってきたと思います。国策としてジェネリック医薬品の使用促進が進められる中で、単なる経済主導よりも、医療における様々な事情もよく理解している薬剤部が主導した方が、医師の診療や研究も守ることができるというスタンスで説明しました。「先生方の診療をしやすくすれば、先生方のためになるし、患者さんのためにもなる。結果として病院の経営も改善する。みんながハッピーになるための交通整理役を我々が買って出ます」という考え方が受け入れられたのだと思います。
川上 経済性も重視していますが、前面に出てしまっては処方医の理解は得られません。薬剤部長が営業部長になってしまったら誰も言うことをきかないですよ(笑)。
川上 まず薬剤部がたたき台(ドラフト)を作ります。それをもとに関係する診療科等と協議や調整を行い、フォーミュラリの原案を作成します。その原案を薬剤管理委員会で審議・承認するのですが、すでに関係者との調整が済んで受け入れられている提案なので、席上で意見が衝突することはありません。委員会で承認されたら、委員会の事務局である薬剤部がメールや病院内ポータルサイトで各診療科に周知します。この進め方は、普段の医薬品の採用・削除や領域整理などと一緒です。
川上 製薬企業への聞き取りも含めて、事前の情報収集や調整は相当行っています。医薬品情報管理室の薬剤師たちは各診療科の先生方と密に協議をしながら薬剤管理を進めており、その取り組みの一部としてフォーミュラリも作成しています。各診療科と薬剤部門、個々の医師と薬剤師の常日頃からの良好な関係があるからこそ、薬剤部門の提案も受け入れやすくなっていると思います。
川上 感染対策では経口抗菌薬(図2)、広域スペクトラム抗菌薬(図3)などのフォーミュラリも作成しています。それ以外の領域を含め、これまでに13薬効群(表)でフォーミュラリが作成されています。
抗インフルエンザウイルス薬のフォーミュラリでは各製剤の薬剤費も併せて示し、コスト意識を促しています。