■今回は,突然の動悸を訴える高齢女性を扱う(図1)。救急外来では“あるある”シチュエーションだ。動悸の原因であろう頻拍の心電図診断と適切な治療を考えよう。
■R-R間隔は整で2マス*1強と心拍数もかなり速そうだ。抜粋したV1から実際に計算してみよう(図3)。
■r波が太線に“オン・ザ・ライン”している3拍目を起点とし,次拍,次々拍のr波が線上になければ,“2拍飛ばし”で6拍目(図3黄色矢印マーク)までの距離を考えよう〔2拍先(5拍目)までを考えて70/分×2とするのも悪くないが〕。6マスと2目盛り*1であり,これを心拍数に換算すると「47/分」だが,実際はその“3倍速”のため「141/分」が知りたい心拍数の値となる(はさみうち等分足し引き法:(→解答050を参照)詳細は拙著参照1))。自動計測値は140/分だった。
■QRS波形は平素(図2と比較)からほぼ変わらぬ頻拍であり,いわゆるnarrow QRS tachycardiaである。R-R間隔の様子から最も頻度の高い「心房細動」(AF)は除外でき,非発作時(図2)で認められる洞性P波が確認できず,「洞頻脈」の線も消せるだろう。
■この段階で「心房頻拍・粗動」(AT/AFL)ないし「発作性上室頻拍」(PSVT)に絞り込まれる。今回のように心拍数が「150」という数字に近いとき,心疾患の既往や手術歴,抗不整脈薬の服用がなければ,筆者はPSVTと房室伝導比2:1の「通常型心房粗動」(2:1 AFL)の二者択一と考えることにしている。
■2:1 AFLでは教科書に載っている典型的な「鋸歯状波」(flutter-wave)は見えにくいこともあるが,PSVTに比べて波形がどことなく“ギザつく”のが特徴だ*2。
■今まで心疾患とは無縁な点,非常に“スムース(滑らか)”な波形から,PSVTの診断で良さそうだ*3。
■「診断」がついたら,あとは「治療」だ。PSVTなら③「ワソラン®(ベラパミル)静注」か④「アデホス®〔アデノシン三リン酸(ATP)〕急速静注」か悩むだろう。治療中の気管支喘息があるので,②「インデラル®(プロプラノロール)静注」と④は不適だ(ともに「禁忌」に近い)。④は喘息への配慮と急速(ボーラス)静注することがポイントである。また,器質的心疾患もなく血行動態も不良でなければ,PSVTに対して⑤「カルディオバージョン(cardioversion)」はfirst choiceとなり得ない。本例では③の投与で頻拍停止に成功した。
■PSVTを見たら,根治療法としてのカテーテルアブレーションを一度は考慮すべきだ。高齢者であっても,安全かつ高率で治療に成功したとの報告もある2)。是非とも,循環器専門医へコンサルテーションして欲しい。
*1:心電図用紙に太線で描かれた5mm四方の正方形を筆者は「マス」,1mmサイズの小四角を「目盛り」と呼ぶ。
*2:筆者は言葉にできない“動物的な”カン(勘)を駆使して心電図を読むことを推奨しているが,これもそんなうちの1つだ。
*3:V1でQRS直後のノッチが“pseudo r(wave)”を形成しており,房室結節リエントリー性頻拍(atrioventricular nodal reentrant tachycardia:AVNRT)を疑うのはやや専門的な話だ。
Dr.ヒロの一言 発作性上室頻拍(PSVT)の“特効薬”を2つ言えるか?救急での使い分けと注意点は?