編集代表: | 宮岡等(北里大学名誉教授(精神科)) |
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判型: | B5判 |
頁数: | 188頁 |
装丁: | 2色刷 |
発行日: | 2025年03月15日 |
ISBN: | 978-4-7849-7375-0 |
版数: | 第1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
設定1. 確定診断前の段階
1「がんかもしれないと心配で夜も眠れない」
2「もう少し様子をみたいので検査を待ってほしい」
3「自分は煙草も酒もやらないし,家族にもがんは1人もいない。自分ががんであるはずはない」
4「もう手遅れで死ぬのか?」
5「がんであるはずがない。何かの間違いではないか?」
6「検査の結果を聞きたくないので家族に伝えてほしい。結果をはっきりとは聞きたくない」
設定2. 確定診断のための精密検査の段階
1「どうしてこんなに検査が多いのか?検査の説明で合併症などの話を聞くとやる前から気が滅入る」
2「知人から死にそうになるくらいしんどかったと聞いた。怖くて検査を受けたくない」
3「検査のせいで時間がかかり手遅れになるのが怖い」
4「結果が悪かったら聞きたくない」
5「検査を進めるのを待ってほしい」
設定3. 確定診断後①:病名告知後
1「結果をはっきりとは聞きたくなかった」
2「もう何も考えられない。これ以上は聞きたくない」
3「結果が間違っている。がんであるはずがない」
4「どのくらいで死ぬのか? 死にたくない。何も考えられない」
5「もう何もしなくてよい。早く死にたい」
6「早期でしょ?すぐ治るでしょ?絶対に治りますよね」
設定4. 確定診断後②:病期告知後
1「治るはずなのに治せないとはどういうことだ。治せる病院が他にあるのではないか?」
2「がんなんて信じない」
3「もうだめってこと? 死ぬってこと?」
4「治らないならすぐに楽にしてほしい。死なせてほしい」
5「〇〇様が助けてくれるはずだから私は助かる。生き延びる」
6「勤務先には知られたくない」
7「生活への影響は?」
8「自分のライフワークはこのまま続けられるのか?」
9「家族に心配かけたくないから,知られたくない」
10「治療には体力が要るというが,治療を続けられるのか」
11「治療にはお金がかかるというが,自分は一番いい治療を受けられるのか,治療を続けられるのか」
12「家族や支援者,会社にも気を遣わせている。どうすればいいか」
設定5. 積極的がん治療開始後①:治療初期
1「こんなにつらいなら治療しなきゃよかった。でもやめる勇気はない。どうしたらよいかわからない」
2「何のために治療をしているのかわからない。もう治療はやめたい,死にたい」
3「副作用が心配」
4「治療が続けられるのかが不安」
5「周囲に気を遣わせてしまっている」
設定6. 積極的がん治療開始後②:治療維持期
1「治療が続けられるか心配」
2「勤務先に迷惑をかけ続けている」
3「家族(サポーター)に迷惑をかけ続けている」
設定7. 積極的がん治療開始後③:再発後
1「がんは治るって言ったじゃないですか? どうして再発するんですか?何かの間違いじゃないんですか? 納得できない。こんなに頑張ったのになぜ?」
2「もう大丈夫だと思ったのに……。再発と言われてもう何も考えられません。どうしたらよいですか?」
3「何も考えたくありません。もう悪い話は聞きたくありません。今回はもういいです」
4「もう治すことは諦めたほうがいいでしょうか」
設定8. 終末期への移行
1「がんの治療をやめるのが怖い。諦めたくない。助かると信じてる」
2「どうなっていくのかが不安でしかたない。夜も眠れない。先の希望がない」
3「家族に迷惑をかけ続けている。これ以上生きていても……」
4「死にたくない。死ぬのは嫌だ」
5「もういい。すぐに楽になりたい。苦しみをとるためならどんな注射や処置でもして下さい。もう終わりにしたい。安楽死させて下さい」
設定9. 終末期の家族・サポーター
1家族・サポーターからの悩み「かわいそうで見ていられない。一緒にいるとつらい」
2家族・サポーターからの悩み「いうことを聞いてくれない。だんだん嫌いになっていく」
3家族・サポーターからの悩み「このまま何もしないのは受け入れられないが,何かできるとも思えない」
4家族・サポーターからの悩み「本当の気持ちを話してくれない。愚痴などを言ってくれない」
5家族・サポーターからの悩み「自分でできそうなことまで,全部私に頼ってくる」
6家族・サポーターからの悩み「最近急に(患者の)落ちこみがひどくなってきた」
7家族・サポーターからの悩み「『医師には内緒にしてほしいが』と言って,家庭のことや病気のことを話してくる」
8家族・サポーターからの悩み「患者がずっと『死にたい』と言い続けている」
設定10. サバイバー
1「がんって聞くとドキドキして苦しくなる。治ったはずなのにつらい」
2「またがんになるのが不安」
3「仕事や私生活に自信がわかない。元気が出ない」
4「後遺症がつらい」
日本国内でがんと診断される人は2020年には約95万人に達し,がん専門病院に勤務する医師だけでなく,多くの医師ががん告知とそれに伴う説明を求められることになった。本書は「がん治療にまつわる患者の悩みへのアプローチ」と題し,がん罹患に関係して起こる患者の悩みや心身の反応を患者の言葉で具体的に示し,医療者はどのように対応すべきかを,がん治療を専門とする医師や精神腫瘍学に関わる精神科医や心理職が答えたものである。
がん医療の場で診断告知や疾患の説明,医師の対応に一定の答えがあるとはいえない。またがんの種類,患者の性格,家族を含む環境などは患者ごとに異なるため,執筆者には答の汎用性は求めず,「自分なら臨床現場でこうやっている」という対応を記載してもらった。したがってその記載は手本に適したものもあれば,読者の中に「自分はそうしない」という議論を起こすこともあってよいと考えている。各項目に「別の面から」という項目を入れて,書面討論のように議論を活発にしたかったが,日本の風土なのかがん医療の特性なのか,実現が難しかった。その代わりというのも適切でないが,編集代表の小子が「Dr.宮岡からの一言」として,執筆者があまり触れてない面や触れているがもっと強調したい点を入れた。
もう一点,evidence-basedに触れる。がんの身体医療は言うまでもなく,精神医療でも,最近少し下火になっている傾向もあるが,エビデンスとそれに基づくガイドラインが求められている。小子は精神面という患者の個別性を重視すべき医療でエビデンスをどう求めるべきか,エビデンスを求めすぎると,個々の患者の性格や環境面への配慮が消えるのではないかが気になっていた。がん患者の精神面への対応という通常の精神医療以上にエビデンスを求めにくい領域で,本書では求めなかったevidence-based psychooncologyはどのような発展を遂げるのであろうか。
本書ががんを専門とする医師だけでなく,がんの疑いのある患者に接する可能性のある一般医,がん患者の精神面への対応,あるいはそのアドバイスを求められる精神科医に読んでいただいて,多くの方のご意見を伺いたいと思う。
2025年2月
編集代表 宮岡 等