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【シリーズ・製薬企業はどう変わろうとしているのか─各社のキーパーソンに聞く(6)〈ノバルティス ファーマ〉】InnovationとIntegrityで医療に貢献 どこよりも信頼される企業へ

No.4927 (2018年09月29日発行) P.14

登録日: 2018-09-27

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高血圧症治療薬「ディオバン」の臨床研究を巡る不正疑惑で、ノバルティス ファーマと同社元社員が起訴され社会問題となった、いわゆるディオバン事件。医療界・製薬業界を大きく揺るがした同事件以降、社会の信頼を取り戻すべく様々な再発防止策に取り組んできた同社は、企業風土改革をどのように進め、どこに向かおうとしているのか。また、研究開発型企業として、薬価制度の抜本改革、医薬品販売情報提供活動ガイドライン策定の動きなど昨今の医薬品開発・情報提供を巡る環境変化にどのように対応しているのか。綱場一成社長に話を聞いた。

─期せずしてディオバン事件の控訴審の公判が行われるタイミングでのインタビューとなりましたが、控訴審にはどのようなスタンスで臨まれるのでしょうか。

綱場 明日(9月13日)、控訴審の初公判が予定されています。無罪を主張するというところは変わりませんが、第一審同様、真摯に対応していきたいと考えています。2014年7月に起訴されて以来、弊社は様々な再発防止策に取り組んできました。我々としては引き続きその取り組みを進めていくしかないと思っています。
私自身もよく臨床医の先生を訪問することがあるのですが、いまだにディオバンの件でおしかりを受けることがあります。医療関係者、研究者の皆様を含め社会に多大なるご迷惑をおかけしたこと、日本の医学・医療の信頼を大きく失わせてしまったことに対しては社会的・道義的責任を感じており、信頼回復に全力で努めていきたいとあらためて思っています。

社内の風土に変化、次なる目標へ

─昨年4月に社長に就任した際、企業風土改革を継続していく考えを表明されましたが、社内の風土は着実に変わってきていますか。

綱場 変わってきていますね。前任のダーク・コッシャは企業風土改革のための草の根運動の素地をつくり、Reborn活動を推進してきましたが、それを発展的に解消して、InnovationとIntegrityの2つの“I”を両輪として医療に貢献していくことを表明し、「Destination 22」という2022年の我々のあるべき姿を策定しました(図)。いまはそこに向けて全社的な取り組みを進めているところです。

─ディオバン事件などを機に医薬品の情報提供のあり方も厳しく問われるようになりました。製薬企業に関する本誌アンケートでは、医療現場からノバルティス ファーマに対し「頑張ってほしい」という声とともに、「副作用情報の隠蔽は二度としないでほしい」という声が寄せられています。

綱場 ディオバン事件の後、我々は2014〜15年に副作用報告の遅れで業務改善命令や業務停止命令を受けましたので、おそらくそのことをおっしゃっているのではないかと思います。
我々はMR(医薬情報担当者)を含め全社員に高い倫理観を浸透させる取り組みを進め、業務停止命令を受けた3月には毎年リフレクション・デイとして、業務を離れて丸1日コンプライアンスや倫理のトレーニングを行う日を設けています。こうした取り組みは今後も続けていきたいと思っています。
臨床医の先生方からの叱咤激励は現場のMRにとっても励みになります。二度とこのようなことを起こしてはいけないとあらためて肝に銘じたいと思います。

─医療関係者からは、ディオバン事件以降、学会活動や研究への資金提供が減り、学会や教室の運営が厳しくなっているという不満も聞かれます。

綱場 これは我々が申し上げるのは難しいところですが、今回の事件の後、弊社はグローバル基準の医師主導臨床研究のガイドラインを導入しました。また、従来の奨学寄付金は使途が不明確という批判も多かったので、最初に契約を交わし資金提供するという研究助成に変更しました。
ディオバンの件で環境が劇的に変わった点は大変ご迷惑をおかけしたと思っています。臨床研究法の「国民の臨床研究に対する信頼の確保を図る」という精神を忘れずに今後も産学連携を進めていきたいと思います。

予見できない薬価引下げに危機感

─ノバルティス ファーマは研究開発型の企業としてがん領域などに力を入れていますが、市場が急激に拡大したという理由で新規抗がん剤の薬価を大幅に引き下げるといった、最近の薬価制度改革についてはどのように受け止めていますか。

綱場 「オプジーボ」などを念頭に置いた話だと思いますが、予見できない薬価引下げに対する怖さは確かにあります。今後、医薬品に関してはオプジーボよりも高薬価の薬剤が立て続けに出てくるはずですが、例えば1年間の売上げのみで翌年から薬価がバッサリと引き下げられるとなると、研究開発型の企業としては将来の投資が非常に難しくなります。

─ジェネリック使用推進の流れについては、どう考えていますか。

綱場 特許が切れたらジェネリック医薬品へ役割を移していくというのが基本的な考え方だと思います。その一方で、先進的・革新的な医薬品に関しては、その価値をしっかりと評価し、保険償還していただける体制をつくってほしいと思っています。

疾患領域の広さが強み

─IFPMA(国際製薬団体連合会)のコード・オブ・プラクティスの改定も予定されており、製薬企業と医療提供者の関係のあり方も大きく見直されていくと思いますが、今後、医療提供者とのコミュニケーション、関係づくりはどのように進めていきますか。

綱場 我々は革新的な治療薬・治療法を提供していくことが最大の使命です。医療関係者の皆様には、新しい治療薬を実臨床で使って得られた情報をぜひフィードバックしていただきたいと思います。
弊社の場合、がん領域だけでなく「循環器・代謝」「呼吸器」「中枢神経」「免疫・肝臓・皮膚」「眼科」も主要な疾患領域として医薬品の開発を進めており、この領域の広さが我々の強みだと思っています。プライマリケアの分野にも引き続き軸足を置いていきます。
例えば、抗IgE抗体製剤の「ゾレア」は、現在、気管支喘息、特発性の慢性蕁麻疹の適応を取得していますが、スギ花粉症の適応追加も目指しており、こういったところで特に開業医・プライマリケア医の先生方のお役に立てる可能性があります。先生方から実臨床の情報をいただきながら、それを開発に活かすという良い関係をぜひ構築していきたいと願っています。

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