ノバルティスファーマは4月19日、3月に製造販売承認を取得した国内初となるCAR-T細胞療法「キムリア点滴静注」(一般名:チサゲンレクルユーセル)についてメディア向けセミナーを開いた。この中で同社のブライアン・グラッツデン氏(オンコロジージャパンプレジデント)は、発売時期は未定としながら、発売当初はキムリアによる治療を提供する医療機関を「2〜3カ所」に限定する方向で調整を進めていることを明らかにした。
キムリアは、ノバルティス社が開発したCAR-T細胞療法(キメラ抗原受容体T細胞療法)の製品名。同療法は、がん患者から採取したT細胞を遺伝子導入により改変し体内に戻すことで、B細胞性腫瘍を攻撃する全く新しいがん免疫細胞療法で、海外では米国、欧州、カナダ、スイス、オーストラリアで承認されている。
今回の承認では「再発または難治性のCD19陽性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)」と「再発または難治性のCD19陽性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)」が適応症とされ、「緊急時に十分対応できる医療施設で、造血器悪性腫瘍および造血幹細胞移植に関する十分な知識・経験を持つ医師のもとで使用すること」などの条件が付けられた。
CAR-T細胞療法は、①白血球アフェレーシスにより患者からT細胞を採取、②米国に輸送し、ノバルティスの製造施設(ニュージャージー州)でウイルスベクターを用いてT細胞を改変、③改変されたT細胞(CAR-T細胞)を増殖させ、品質検査を経て日本に輸送、④患者に投与(1回のみ)—というプロセスで行われる。
19日のセミナーでグラッツデン氏は、発売時期について、5月とみられている薬価収載の後できる限り早く発売したいとしながら、国内で最初に治療を提供する施設について「発売日に公表するが、2〜3カ所の医療機関で提供できると思う」との見通しを示した。現在世界に1つしかないキムリアの製造施設を増やす計画もあるとし、「欧州、アジア、その他の地域での(製造の)可能性を模索している」と述べた。
セミナーに同席した北大血液内科学教授の豊嶋崇徳氏(写真右端)はCAR-T細胞療法について「製造不良のリスクなどがあり、治療を受けられないケースもある。副作用が強い場合もあり、それなりの覚悟が必要。ただ、うまくいけば1回の治療で効果が得られ、QOLも高い可能性がある」と、過度な期待をしないよう注意喚起しつつ他に手段のない患者を救える可能性のある画期的な治療法であることを強調。
その上で「需給バランスが破綻しないよう、専門医による慎重な適応判断がポイントになる」と指摘した。
豊嶋氏は「CAR-T細胞は標的ががんに向いているため、免疫チェックポイント阻害薬で起こるような自己免疫疾患は起きない。ロングタームでいうと、おそらくCAR-T細胞のほうが安全」とも述べ、研究開発中の多発性骨髄腫などへの適応拡大に期待を示した。
「キムリア」の作用機序
投与後、体内にCAR-T細胞が拡散。CD19を発現しているがん細胞を見つけて結合し攻撃・死滅させる。体内に標的のがん細胞がある限りCAR-T細胞は体内で増え続け、継続的に攻撃するため、投与は1回のみ