医療費適正化を進めなければ医療保険財政は持たなくなる─。そうした問題意識から後発医薬品(ジェネリック医薬品)使用促進の必要性を認める3人の臨床医に、後発品の現状をどのように受け止め、どのように処方の判断をしているかを聞いた。(本誌・永野拓紀子、土屋寛)
先発医薬品の特許期間が満了した後、その特許を利用して、先発品と同一の主成分によって作られる後発医薬品。開発費用がかかっていないため、先発品より安価であることが最大の特徴だ。
人口の高齢化などにより日本の国民医療費は年間約1兆円ずつ増加し、2011年度現在38兆5850億円に達している。政府にとって後発品の使用促進は、医療費削減のための重要施策といえる。
厚労省は2013年4月、後発品使用促進のロードマップを公表し、その中で新目標値を設定した。後発品の置換え率(後発品のある先発品と後発品を分母とした後発品の数量シェア)を2018年3月末までに60%以上にするという。現在は47.2%だ(2013年9月)。この目標が達成された場合の削減効果について財務省は、国民医療費ベースで5300億円と試算。仮にすべて後発品に置き換わった場合には、1兆5300億円の削減効果があると見込んでいる。
処方せん様式の変更や加算の新設など、診療報酬上の使用促進策も多くつくられるなか、現場の臨床医は後発品をどのように使用しているのだろうか。
ある地方のがんセンターで診療を続けるA医師は、以前、センター内で後発品の使用促進を進めた経験を持つ。
当初、現場の医師たちの納得がなかなか得られなかったが、院長の理解を得たことで後発品使用が促進。そしてセンターがDPC(包括医療費支払い制度)を導入した後、一気に使用率が上昇した。
A医師が後発品使用に積極的なのは、国の医療保険財政に対する危機感と現在の癌医療への疑問があるからだ。「癌医療の最前線では、超高齢の末期癌患者に高額な抗癌剤が投与される一方で、若年の癌患者が抗癌剤の自己負担に耐えられず、治療を止める状況がある。日本の財政は債務が膨らんで、そのツケを次世代に回してなんとか維持している状態。その中で医療費は国民皆保険制度の下で守られているのだから、医師はもっと費用対効果を考えて医療を進める必要があるのではないでしょうか」
後発品使用に反対した医師の理由は大きく4つ。「品質が不安」「供給体制が不安」「先発メーカーとの関係維持」、そして「感情的な反発」だった。しかし現在は、センター独自の採用基準を確立し、品質と供給体制への現場の懸念を払拭している。
品質に関しては、生物学的同等性試験の結果に加え、長期保存に耐える安定性や溶出などの規格試験、添加物や包装・容器の安全性、オレンジブック収載の有無などを確認。供給体制については、1カ月以上の在庫の有無、時間外対応、不良品回収対応、市場占有率などを審査する。さらに、患者向け服薬指導用資料の有無やMR数など情報提供体制も確認。これらのチェックリストを基に、癌の領域ごとに委員会が後発品をランク付けし、そこで高評価だった後発品を上位委員会が審査し、採用を決定する。
「1剤につき30分〜1時間ほどかけて慎重に検討しています。中には、品質管理に疑問を持つ後発品もありますが、基本的には先発品と大差ないと考えています。後発品であることが原因の問題事例も経験していませんし、中には20年前より製剤の技術が進んで先発品より品質が良いものもあります」
こうした経験からA医師は、地域医療の現場では調剤薬局の姿勢が問われていると指摘する。
「品質管理よりも値引き率の高さを優先するような、利益優先主義の調剤薬局が一部存在することは問題です。医療保険財政の観点でいえば、後発品がある先発品はすべて後発品に置き換わるべきだと思いますので、調剤薬局には医師の不安を払拭するような厳しい品質管理体制を望みたいですね」
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