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國頭医師のオプジーボ亡国論をどう評価するか? [深層を読む・真相を解く(55)]

No.4810 (2016年07月02日発行) P.20

二木 立 (日本福祉大学学長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-23

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  • 國頭英夫医師の「オプジーボ亡国論」が大きな議論を巻き起こしています(「医学の勝利が国家を滅ぼす」『新潮45』2015年11月号、「コストを語らずにきた代償」『週刊医学界新聞』2016年3月7日号)。國頭医師は、免疫チェックポイント阻害薬オプジーボ(一般名:ニボルマブ)を受ける肺癌患者の年間医療費は3500万円で、それが適応のある患者5万人全員に投与された場合は年間1兆7500億円に達すると推計し、オプジーボの「登場を契機として、いよいよ日本の財政破綻が確定的になり、“第二のギリシャ”になる」と主張しています。

    この衝撃的主張は、全国紙3紙が社説で引用するなど、ジャーナリズムでも大きく取り上げられています。それに対し、柿原浩明京都大学大学院教授等は、『国際医薬品情報』4月25日号の論考(副題:オプジーボ問題を考える)で、國頭医師の推計が誇大であることを詳細に明らかにしています。

    本稿では、医療経済・政策学の視点から、國頭医師の主張の功罪を複眼的に検討します。

    國頭医師の主張の2つの功績

    私は、國頭医師の主張には2つの功績があると思います。第1の功績は、安倍政権が昨年閣議決定した「骨太方針2015」の社会保障費抑制の数値目標が非現実的であることを明らかにしたことです。それは、今後毎年の社会保障費の伸びを「高齢化による増加分」(約5000億円)に限定し、医療技術進歩による医療費増加を一切認めないという、史上最大の医療費抑制方針でした(本連載㊺、4760号)。しかし、國頭医師の主張により、新薬を含むほとんどの医療技術進歩が医療費を増加させるという、医療関係者なら誰でも知っている常識・歴史的事実がジャーナリズム等で「再発見」されました。

    第2の功績は、國頭医師の主張がいわば「ショック療法」となり、政府・財務省・厚生労働省、中医協、日本医師会等でオプジーボを含めた高額医薬品の費用抑制策の議論と合意形成が急速に進んだことです。既に確定した政策としては、高額医薬品の「市場拡大再算定の特例」による薬価引き下げと、医療技術の費用対効果評価の試行的導入の対象品目設定があります。これら以外にも高額薬剤の適応追加時の薬価再算定、高額医薬品の費用捻出のための長期収載品の薬価引き下げ、現行の薬価算定方式そのものの見直し、診療ガイドラインの設定等があります。

    注目すべきことに、高額薬剤対策を巡っては、厚生労働省、日本医師会、保険者、さらには財務省の間で「呉越同舟」とも言える合意形成が生まれています。その上、日本の製薬業界の政治力が伝統的にきわめて弱いことを考慮すると、これらの対策の多くが導入される可能性は高く、結果的に國頭医師の「予言」は実現しないと思います。

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