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新規抗凝固薬の有効性・安全性巡り学術担当者と専門家が議論 [J-CLEAR セミナー] 

No.4702 (2014年06月07日発行) P.10

登録日: 2014-06-07

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【概要】新規抗凝固薬のセミナーが臨床研究適正評価教育機構(J-CLEAR、桑島巖理事長)主催でこのほど開かれ、宣伝方法やガイドライン、臨床試験等について議論が交わされた。


セミナーでは新規抗凝固薬を販売する3社(第一三共を除く)の学術担当者が各臨床試験の結果を紹介し、桑島理事長と内山真一郎氏(山王病院脳血管センター長)、後藤信哉氏(東海大循環器内科教授)、山下武志氏(心臓血管研究所所長)の質問に回答した。

●MRの情報提供に問題
「ダビガトラン」(日本ベーリンガーインゲルハイム)については、発売当初に発生した出血死への質問が集中。原因と事後対応について担当者は、「当初は出血リスクが高い患者の特徴が分からず、腎機能への配慮に関する周知が不十分だった」と反省の弁を述べ、「ブルーレター(安全性速報)発出後は1年間、MRに売上を求めずに適正使用の周知を徹底し、通常6カ月の市販後調査を1年間に延長した」と説明。その結果、死亡事例が激減したという。
「リバーロキサバン」(バイエル)については、安全性の検証を主目的に国内で実施されたJ-ROCKET AF試験の結果を用いて、MRが脳卒中・全身性塞栓症の発症率がワルファリンよりも51%低下すると広報していることが問題視された。山下氏は、同試験では脱落者を含めたITT解析を行っていないと指摘し、その理由を質問。担当者は「有効性を確認する試験ではないことと、loss to follow-upが多い」ためと説明したが、山下氏は「そういう情報が不足している。処方する医師の誤解を招きかねない」と述べ、広報の是正を求めた。

●日本人のエビデンスが不足
「アピキサバン」(ブリストルマイヤーズ/ファイザー)については、担当者がARISTOTLE試験から、高齢になるほどワルファリンに対してアピキサバンの安全性が高くなることを紹介。これに対し後藤氏は、試験対象者1万8201例のうち、日本人が336例に過ぎないと指摘し、「高齢者に安全と言われても疑問」と述べ、正確な広報を要請した。また、対照群はワルファリンを2mgずつ調節していることについて「日常臨床では0.5mg単位で調整している。おおざっぱ過ぎて、かなりワルファリンに不利」(桑島氏)など疑問が相次いだ。
意見交換では、新規抗凝固薬の検証にはさらなるエビデンスが必要との指摘がなされた。
内山氏は、心房細動の出血リスクには人種差がかなりあるとし、「純粋培養されたような第3相臨床試験で、かつ日本人の参加も少ないので、有効性・安全性はまだ鵜呑みにできない印象」と述べ、今後、大規模な日本人の観察研究が必要だとした。
後藤氏は、実臨床では抗凝固薬の投与は臨床試験のように一時的ではなく、「ずっと飲み続ける」と述べ、「長期投与のデータがないことを正直に伝えて」と求めた。また、出血リスクは依然高いとし、より安全な薬剤を開発する必要性を指摘した。

●ガイドラインに疑問も
今年1月に5年ぶりに改訂された日本循環器学会の「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版)」(GL)も話題に上った。フロアから発言した山崎力氏(東大臨床研究支援センター長)は「なぜ新規抗凝固薬が第一選択薬なのか」と問題提起。改訂に関与した山下氏は、欧米のGLを参考にしたとし、「世界のトレンドに反対する根拠が、GLの作成時に日本にはなかった」と説明した。
これに山崎氏が「日本人医師のワルファリンコントロールは下手ではない」と応じたのに対し、後藤氏が賛同。世界のEBMを画一的に適用する考えが、個別症例の差異が大きい心房細動の治療では成り立たたないという共通認識が必要だと指摘した。
山下氏は「GLは専門家が世界のEBMを基に議論して妥当な治療法をまとめたもので、(現場の治療を)縛るものではない」と述べ、臨床現場の判断を尊重する考えに同調した。
このほか、高額な薬価も問題提起された。新規抗凝固薬はワルファリンの約20倍の薬価であるため、内山氏は「GLは医療経済学的な観点のウエイトが低いが、十分な議論が必要」と指摘。フロアからも同様の意見が上がった。

■セミナーを振り返って─桑島巖理事長「情報提供は慎重に」
 本セミナーは新規経口抗凝固薬(NOACs)を発売する3社(第一三共を除く)とワルファリンを発売するエーザイの学術部員による共同説明会というユニークな企画であったが、説明後には専門家から情報提供のあり方について厳しい質問があり、また心房細動治療ガイドラインについても活発に意見が交わされた。
 近年、NOACsが相次いで登場しているが、使い方によっては出血事故と表裏一体の「諸刃の剣」である。ましてや循環器診療を専門としない医師が担当することも少なくない心房細動の治療では、製薬企業の情報提供のあり方には慎重な姿勢が求められる。

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