▶米国のトランプ新大統領は就任早々、大統領令を連発するなど精力的な動きを見せている。オバマ前大統領が取り組んだいわゆる“オバマケア”の見直しにも言及しているが、新政権の影響力は日本の医療制度にも波及する可能性が出てきた。
▶その指摘があったのは、1月25日の中央社会保険医療協議会の薬価専門部会。外国平均価格調整を巡る議論では、製薬企業の希望小売価格である米国薬価を参照価格に用いるかが争点となり、同部会では「除外すべき」との声が大勢を占めた。
▶トランプ大統領はTPP(環太平洋パートナーシップ)協定からの離脱を表明し、2国間FTA(自由貿易協定)締結を推進する方針を打ち出している。最大のターゲットは日本との見方が濃厚だ。こうした状況を踏まえ中川俊男委員(日本医師会)は、「相当な覚悟を持ってこの議論をしなければならない」と強調した。指摘の通り、米国はTPP締結前の2011年に行われた日米経済調和対話で外国平均価格調整について、外国平均価格より高いか低いかにかかわらず、製品が平等に扱われるようルールを改定すべきとしており、新政権はより高い要求を突きつけてくることも考えられる。
▶トランプ大統領は製薬企業を標的に米国内の薬価高騰を問題視し、政府が製薬企業と直接価格交渉できるような仕組みへの見直しを主張している。一方で製薬産業は米国の基幹産業の1つだ。“アメリカファースト”を徹底する政策方針を考えると、自国内で薬価を引き下げた分のツケは他国に負担させるという思考に陥っても不思議ではない。トランプ大統領の就任で、薬価制度の抜本改革は中医協の枠を越えて、重大な通商問題に発展する可能性が出てきたとは言い過ぎだろうか。