【概要】ノバルティスファーマは1月23日、慢性骨髄性白血病(CML)治療薬の医師主導臨床研究「SIGN」に、同社社員がデータを回収する形で関与したことを正式に認め謝罪した。
ノバ社員が関与した「SIGN」研究は、同社が販売する分子標的薬イマチニブ(商品名=グリベック)などのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)を1年以上服用しているCML患者に対し、治療薬を同社のニロチニブ(同=タシグナ)に切り替え、副作用症状の軽減効果や生活の質(QOL)改善度を患者アンケートなどのデータで比較するもの。東大病院を中心に22の医療機関・研究施設が参加し、2012年5月から研究が行われていた。
同社の二之宮義泰社長によると、データは研究プロトコル上、事務局である東大病院血液・腫瘍内科に医師がFAXで直接送信することになっていたが、同社東京事業所のMR8人が複数施設の医師からデータを預かり代理で届けていた。このことを淺川一雄常務取締役が1月7日に把握し、17日に社長に報告。社内調査の結果、事実であることが判明した。
ノバ社は昨年、降圧薬バルサルタン(販売名=ディオバン)を用いた5大学の臨床研究に元社員が関わったことを認め、11月に社員が臨床研究に関与することを一切禁止する新ルールを公表、すべてのMRに倫理研修を受けさせていた。しかし、データ回収は12月にも行われていた可能性もあり、二之宮社長は「再発防止策が徹底されず、またこのような事態を招いたことは言い訳のしようがない」と述べ、謝罪した。
SIGNの研究チームは昨年10月の日本血液学会学術総会で、CML患者126人のデータに基づきTKI服用者の潜在的な副作用について中間報告を発表している。これについて淺川氏は、発表済みデータの中にも社員が運んだものがあるとの認識を示している。ただし、社員によるデータ改竄の有無や、関与のあった時期・件数については「現段階では調査中」としており、同社は社外の有識者による第三者委員会を設置し、詳細を調べる方針だ。
ノバ社員の関与発覚を受け、研究代表者の黒川峰夫東大院教授は17日、「データ改竄の余地はないと考えるが、研究の信頼性が揺らぎかねない」として、第三者委の調査結果が出るまで研究を中断すると発表した。