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【シリーズ・製薬企業はどう変わろうとしているのか─各社のキーパーソンに聞く(1)〈武田薬品工業〉】地域包括ケアへの理解を深め、患者さんの流れに沿った情報活動を目指していく

No.4905 (2018年04月28日発行) P.10

登録日: 2018-04-25

最終更新日: 2018-04-25

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製薬企業を取り巻く環境変化を受け、日本製薬工業協会は2013年に「製薬協コード・オブ・プラクティス」を制定した。また薬価改定ごとに製薬企業の事業環境は厳しさを増し、その活動は変革を余儀なくされている。本連載では現場の臨床医の声を踏まえつつ、各社のキーパーソンにインタビューし、製薬企業がどう変わろうとしているのか、その針路に迫っていきたい。第1回目は武田薬品工業の国内事業を統括する岩﨑真人ジャパンファーマビジネスユニットプレジデントに取材。これからの“タケダ”のあり方について話を聞いた。【毎月第4週号に掲載】

─現場の臨床医の間では、製薬企業が提供する医薬品情報を鵜のみにするのではなく、医師同士での情報交換を基に処方を決めるケースが増えているようです。MR(医薬情報提供者)の高い商品知識を評価する声もありますが、医師との接触機会が減っている状況下で情報提供をどう進めていきますか。

岩﨑 我々は製薬業界の情報活動について、医師の皆様に正しく伝わっているかどうか、約3年前にサーベイランスを行いました。それまでも有用性と安全性をバランスよく情報提供しているつもりでしたが、医師の先生からは「有用性が強調されていると感じる」という意見が多く寄せられました。
これはある意味貴重な発見でした。サーベイを実施する前から、社内では「より安全性にフォーカスを当てた情報活動を行うべき」との声が上がっており、印刷物も安全性を重視したトーンで作成していました。しかしその狙いが十分には伝わっていないことが分かったので、改めて徹底的に見直しをしました。

第三者チェックを経たものだけを公表

─どのような見直しをしたのでしょうか。

岩﨑 このサーベイを開始したのは、「CASE-J」(降圧剤ARB「ブロプレス」の臨床研究)の印刷物で不適切な表現があるのではないかとの指摘が浮上する少し前です。その後サーベイ結果が出るのとほぼ同時期に業務改善命令を受け、情報活動のあり方を根本から見つめ直すきっかけとなりました。
見直しのポイントは、社内で「ハイエストスタンダード」というキーワードを使い、印刷物はもとよりMRが説明会で使用するスライドに至るまで、弁護士を含めた第三者の目を入れ、いわゆる有用性を強調していないかどうか、すべてチェックしてから公表するようにしたことです。その結果、医療関係者からは「もっと製品の特徴が知りたい」との指摘も受けましたが、臨床の一部で効果が出ていたとしても臨床試験としてのエビデンスがないものについては情報提供を控えるようにしました。
MR教育でも安全性についての正しい理解を重視し、添付文書だけでしっかり説明できるようになることを1つの目的としています。添付文書には安全性に関する大切な情報がたくさんあり、これを正しく伝えるのが我々の役割であることを学びました。

─情報活動の柱の1つにランチョンセミナーや講演会があると思いますが、利益相反に対する視線も厳しくなっています。今後どうあるべきでしょうか。

岩﨑 内容次第ではないでしょうか。第三者の目を通すなど徹底的に内容をチェックした上で、出すべきものはしっかり情報提供していくべきだと考えています。

生命関連企業として地域に貢献したい

─地域包括ケアシステムの構築が進み、施設完結型から地域完結型へと医療のあり方が変わりつつあります。こうした変化の中で、適正使用の推進や副作用情報の収集をどのように行っていきますか。

岩﨑 地域包括ケアシステムはエリアごとに姿が異なります。そこで2016年10月より、3次医療圏単位で地域医療の動向を調査・分析し、地域ごとの課題解決の支援を行うRAC(Regional Access Coordinator)という非営業の専門職を導入し、地域包括ケアへの理解を深める取り組みを行っています。
地域の中で医療機能の分化が進むと、我々は「ペイシェント・ジャーニー」と呼んでいますが、患者さんが診断や手術・治療、ケアを異なる場所で受けるようになります。適切な情報活動にはこの流れを正しく把握することが大切ですが、独自のデジタルプラットフォームを活用し、チームで情報活動を展開すれば、それが可能になります。また地域ごとの細かい対応が必要になるので、これまで県単位だった営業所を4月から2次医療圏単位に再編したところです。

─営業所の役割が変化するということですね。

RACはもちろん各営業所の所長は全員が医療経営士という資格を所有しています。医療コンサルティングを行うわけではありませんが、医療機能の再編を伴う地域包括ケアを正しく理解していくためには、医療経営的な視点が必要です。サイエンスの知識に加え、医療制度や診療報酬など地域包括ケアに関わる方々が日常的に使う“言語”を理解することで、より深い議論ができるようになっています。

また東日本大震災以降、本社からの指示ではなく各地の営業所が自主的にボランティアに参加するようになっています。私もクリストフ・ウェバーCEOと防潮林の植樹ボランティアに参加しました。またゴミ拾いや減塩活動の啓発などの地域貢献にも積極的になり、「自分たちは何のために存在するのか」という生命関連企業としての存在意義を確認できる良い機会になっていると感じています。

R&Dの選択と集中でイノベーションを促進

─薬価制度改革により製薬企業の事業環境は厳しさを増しています。逆風下でイノベーションをどう進めていきますか。

岩﨑 薬価抑制の流れは今に始まったことではありません。いずれ来る大きな波に備え、6年前からビジネスモデルの転換を図ってきました。その1つがイノベーションに特化した会社にするということ。安全性や有効性が確立した長期収載品は別会社(武田テバファーマ)に移管し、R&Dでも開発能力とパイプラインを検証した結果、確実にイノベーションを生み出せる分野として、消化器とオンコロジー、ニューロサイエンスに絞って投資しています。いわゆる選択と集中です。もちろん循環器や糖尿病の治療薬に関しては、患者さんへの価値をより高めるために情報活動を継続していきます。

─最後に、共に医療の向上に欠かせない存在である医師に向けてメッセージをお願します。

岩﨑 日本には医療費の増大という大きな課題があります。しかし我々がイノベーションを推進することで、国民皆保険の持続可能性を高めることに貢献できるのではないかと考えています。そのためには我々が医療関係者の皆様と良好なパートナーシップを築いていく必要があります。信頼関係を構築し、チームとして日本独自のモデル作りに貢献していきたいと思います。

 

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