薬価制度改革、臨床研究・医薬品情報提供の規制強化など外部環境が大きく変化する中、ファイザー日本法人は2017年12月、医薬開発部門長などとして新薬開発をリードしてきた医師の原田明久氏を社長に抜擢した。サイエンスを重視し、医療従事者のマインドも熟知する原田社長は、営業現場や社内体制をどのように改革していこうとしているのか。そして、今年1月に米国ファイザー社新CEOに就任したアルバート・ブーラ氏が掲げる「患者さんの生活を大きく変えるブレークスルーを生みだす」というグローバルの方針にどう応えようしているのか。
原田 薬価や臨床研究、情報提供のあり方を巡る環境変化も確かにありますが、一方で、もっと大きな環境変化として、科学の進歩によっていままで考えられなかったような新しい治療手段を医療現場に提供できる可能性が高まっている、ということがあります。
規制強化のような環境変化があっても、我々は科学の進歩に基づいて新しい治療手段を提供するというミッションを果たしていきたいと考えています。
画期的な新薬は値段が高いなどといわれますが、画期的な新薬であればあるほど本当に必要な患者さんは特定できるようになります。本当に必要な患者さんについてしっかりと情報提供し、現場の先生方に正しく使っていただくことによって、画期的な新薬も日本の皆保険制度の中に根付いていくと信じて、企業活動をやっていきたいと思っています。
原田 医薬品の情報にはオンレーベル(適応内)の情報とオフレーベル(適応外)の情報がありますが、オフレーベルの情報は決して営業社員からは提供しない、専門の部署から提供する、ということを徹底しています。「正しい情報提供ができるということは、患者さんを守ることにつながる」ということを営業社員全員にいつも言っています。
営業社員は営業活動だけでなく、講演会の開催などにも携わっています。講演会も、製品についてではなく、疾患の周辺状況、医療的な状況を先生方に勉強していただく機会にするように見直していきます。
原田 従来の講演会とは違ったものを提供しているつもりです。まだまだ足りない部分はあると思いますし、製薬企業がお金を出して開催する以上、ある程度のバイアスはかかっていると思う先生方もいらっしゃると思いますが、そこを払拭するためにも、「患者さんを守る」という観点から、科学的事実に基づく情報提供活動を追求していきたいと思っています。
原田 もし私がいま病院の現場で診療していたとして、どこかのメディカルの部署の人が来て科学的なことを話したら、「ところであなたは、そういう科学の勉強をしたんですか?」と聞きますよね。自然科学系の学部を出て、MasterなりPh.D.なりを取っていたら、「この人はちゃんとしたバックグラウンドを持っているな」となって話を聞くと思います。
我々が開催する講演会も同じだと思うんです。その講演会が、マーケティングの人だけでなく、メディカルの人にも支えられて企画したものであれば、科学的事実に基づいたものになっていきます。先生方の納得度を高めるように取り組んでいきたいと思います。
原田 ブーラ新CEOは「社員の能力をunleash(解放)する」という言葉を使っています。例えば犬をリードから放すことをunleashと言いますが、この言葉には、社員を解放して能力を発揮させるという思いが込められています。社員にリードを付けて「あっちに行くな」と制限していては能力は十分発揮できません。私も、どの部下に対しても、ポジションの低い社員としてではなく、一人前の社員としてリスペクトし思い切り仕事をさせるように促していきたいと思っています。
原田 実際、営業社員の外部の勤務時間は2時間ほど短くなっていますが、短くしてもインパクトのある仕事はできています。どこで時間を見つけたかというと、例えば夜遅くに行動するのではなく、朝の業務を強化するなどの取り組みをしました。人員削減をする前に改善の余地はいっぱいあるんです。
原田 1月から体制を見直し、バイオファーマシューティカルズ事業部門の1つとして病院部門をつくりました(図)。地域包括ケアでは一定規模の病院が中心となって周辺の開業医の先生方とのネットワークが構築されていきますので、各地域で使い慣れた薬を提供できるようにする必要があります。その中で病院部門が重要な役割を果たしていくことになると思います。