【概要】急増する高額医薬品の影響が各種統計に表れ始めた。15年度の社会医療診療行為別統計では「オプジーボ」などの影響で入院における腫瘍用薬の薬剤点数が大きく伸びた。4月から試行導入された「費用対効果評価」の本格導入に向け、議論が加速しそうだ。
厚生労働省は15日、2015年の「社会医療診療行為別統計」の調査結果を公表した。注目されるのは、入院における薬効分類別薬剤点数の構成割合で「腫瘍用薬」が前年度(11.1%)から大幅に増え、最多の13.4%となった点だ(図)。厚労省は「順位が大きく変わることはあまりなく、大きな変化」と指摘し、主な要因に「複数の高額な抗腫瘍薬の承認」を挙げた。具体名への言及は避けたが、14年9月に薬価収載されたニボルマブ(商品名オプジーボ)の影響が大きいとみられる。
●“収載の可否”への活用も視野に
上記結果から、月額290万円という高薬価のオプジーボは、希少疾病である悪性黒色腫(メラノーマ)の適応のみでも保険財政にインパクトを与えることが示唆された(非小細胞肺がんへの適応拡大は15年12月)。こうした状況の中、重要性を増すのが今年度から試行的に導入された医薬品・医療機器の「費用対効果評価」のあり方だ。試行導入では増分費用効果比(ICER、用語解説)などを踏まえ定性的評価を示し、保険償還価格への「調整に用いる」ことになっている。しかし、抜本的対応策が急務として、試行導入では見送られた“収載の適否”への活用を巡り、今後、中央社会保険医療協議会で議論が行われることになりそうだ。
●収載時、中医協で“適応拡大”の議論はなされず
オプジーボが投げかけた問題は他にもある。薬価算定原案を作成する薬価算定組織の議論が非公開で行われている上に、中医協の場で「治験の進捗状況」という重要な情報が開示されないという現行制度の“不備”は、早急に改善する必要があるだろう。実際に収載が承認された14年9月の中医協総会(田辺国昭会長)では、画期的有用性が評価されたことに加え、販売市場規模が31億円と大きくなかったこともあり、目立った議論は交わされなかった。しかし、近い将来数万人に適応拡大される可能性があるとの認識に立てば、少なくとも60%が加算された「営業利益率」には異議が唱えられたのではないか。
オプジーボは18年度の次期薬価改定では最大50%の引下げが行われる特例拡大再算定の対象となることが予想されるが、その間にも新たな適応拡大の可能性がある。次期改定までは臨床面で、適正使用を徹底するなどしか有効な手立てはないが、同剤は投与してみないと効果がわからない。効果のある患者を選択するバイオマーカーの開発が急がれるところだ。
●用語解説
【増分費用効果比】
ICERで表すことが一般的で、ICERは「1単位の効果」(生存年、QALYなど)を獲得するのに必要な費用を示す指標。費用対効果の優劣を判断する際に用いる。