抗がん剤といえば吐き気のイメージが強いですが、本邦でも『制吐薬適正使用ガイドライン』(日本癌治療学会)が整備され、適切な制吐療法によって、高度の嘔気を訴える患者はだいぶ減ってきた印象があります。緩和ケアは末期限定ではなく、がんと診断された時から行うことが第2期がん対策推進基本計画より示され(現在は第3期)、抗がん剤治療の症状緩和に緩和ケア医が携わる機会も増えており、適正な制吐薬使用で実際に多くの症例が緩和可能であると感じています。
昨年12月ランセット・オンコロジーに、日本発の研究であるJ-FORCEの結果が掲載されました。標準的な制吐療法にプラスして抗精神病薬オランザピンを用いて、抗がん剤シスプラチンによる治療を受ける患者の吐き気への効果を見たものです。
このオランザピン、実は2017年に「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)」に対して承認されています。ただ、この際の承認は「公知申請」でした。オランザピンはもともと統合失調症等を適応とする抗精神病薬です。しかし、ドパミン、ヒスタミン、セロトニンなど様々な受容体に作用することで、吐き気止めとして好ましい薬効を持っているのです。なお日本での研究で、抗がん剤に限らず、がんによる吐き気にも効果があることが示されています(Kaneishi K, et al:Support Care Cancer. 2016;24:2393 -5.)。
処方された先生はご存じと思いますが、オランザピンは抗ヒスタミン作用などがあり、眠気が強いです。そのため5mgでも時々症状が強く現れる方がいます。日本では公知申請で5mgが承認されたのですが、海外では10mgを用いた研究やガイドラインもあり、いずれが妥当なのかは議論がありました。
今回の研究(J-FORCE)結果では、シスプラチンを使用した患者が、遅発性の吐き気が出る24〜120時間後において、オランザピン5mgでも十分な制吐作用の効果のあることが示されました(オランザピン群79% vs プラセボ群66%)。海外でも「これは新しい標準的な制吐療法と見なすことができる」などと評価されています。
抗がん剤治療も副作用を抑えてできるだけ楽に受ける時代になってきています。
大津秀一(早期緩和ケア大津秀一クリニック院長)[がんの緩和ケア]