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【識者の眼】「裁判所で医師を守るためには」中井祐一郎

No.5011 (2020年05月09日発行) P.43

中井祐一郎 (川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)

登録日: 2020-05-11

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前回(No.5005)は「行きつけ」の刑務所の話をしたが、特定の警察署や地方検察庁へと足繁く通った時期もあった。裁判所や弁護士事務所での仕事は、今でも得意分野である。

基本的には被告(医療)側を支援しているが、稀には原告(患者)側に付くこともある。いずれの場合も、それなりの結果を上げていると自負している。

弁護士からの質問に答えるという形式での「私的意見書」の提出による支援が多いが、証人として法廷に立つこともしばしばある。後者では相手方弁護士からの反対尋問に対応する必要があるので、敬遠する者も多いだろう。しかし、自らが提示した意見への反論に対して、再反論によって自己の正当性を証明する機会が得られるばかりか、再反論は被告医師に対する直接的支援にもなる。したがって、やり甲斐がある仕事であり、私はこれを結構楽しんでいる。

我々が被告医師を守る手段は私的意見書や証言であるが、医師の中にはカンファレンスとしての議論を開陳する者もいる。現実の個々の医療の場では、医療上の問題のみならず、種々の社会的条件による制約が存在している。事件の生じた「場」において、個々の医師がなし得ることを基本においた議論が必要である。そして、その場に置かれた医師は、専門家として卓越した技能を持つ者ではなく、標準的な医師であることにも留意しよう。

産科領域では、児の後遺障害を巡って、緊急帝王切開が俎上に載ることが多い。一般の病院標榜施設では緊急帝王切開を行うのに、いかほどの時間を要するのであろうか…その問いに答えるために、いくつかの大学と協力して、調査を行ったことがある。実際の「場」には、条件に恵まれた時(最短)と条件が悪い時(最長)があろう。それぞれの条件に分けて聞いてみたが、この違いは被告医師の責めに起因するものではない。幸い、この報告は医療側弁護士から好評をもって迎えられ、これを証拠とする主張は裁判所からも認められたと聴いている。

中井祐一郎(川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)[女性を診る]

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