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【識者の眼】「高齢者の運転免許─道交法改正後の悩み」平川淳一

No.5021 (2020年07月18日発行) P.63

平川淳一 (平川病院院長、東京精神科病院協会会長)

登録日: 2020-07-01

最終更新日: 2020-07-01

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私の病院のある東京都八王子市は半分が山で、バスが1〜2時間に1本しかないところもあり、生活をする上で軽自動車は欠かせません。特に高齢者にとっては必需品です。一方で、逆走やアクセルの踏み間違えなど高齢者の起こす交通事故は大きな社会問題です。運転技能には、自転車やピアノなどと同様に、「身体で覚える記憶」として小脳が大きな役割を果たしていると言われています。一方、認知症の病変は大脳にあるため、認知症になっても、自転車には乗れるし、ピアノもひける、車の運転もできるということになります。

道路交通法の一部改正により、2017年3月12日から75歳以上については、免許更新時や一定の違反行為を行った時に認知機能の低下が認められた人は、専門医や主治医による臨時適性検査を受け、所定の様式の診断書を提出しなければならなくなりました。すなわち、医師の「認知症」の診断書一つで免許が取り消しになってしまうのです。医師は患者の幸せを第一に考える職業だと思います。その医師が患者を困らせることになるのです。長年、外来に来てくれている患者さんから相談を受けて、認知症だと平然と言える医師はいないでしょう。しかし、私は認知症疾患医療センター長として、警察から医学的な判断を求められます。私は、安全を重視し、認知症の人は運転を控えた方が良いと思っています。もし事故を起こしてしまえば、それまでの人生が御破算どころか、マイナスになってしまいますし、命が失われれば取り返しはつきません。また、軽い認知症の人達が、自分の能力を過信し、深刻な事故を起こしやすいかもしれません。嫌な役ですが、しっかりと診断し伝えることが本当にその人を思いやることだと考えます。しかし、生活ができなくなるのは本当に困るので、地域での高齢者の移動手段や買い物の支援など、早急な対応、整備を望みます。

平川淳一(平川病院院長、東京精神科病院協会会長)[認知症]

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