No.5023 (2020年08月01日発行) P.60
垣添忠生 (日本対がん協会会長)
登録日: 2020-07-21
最終更新日: 2020-07-21
日本は多死社会に入った。2019年の年間死亡者数は137万人。2039年にはピークに達し、167万人が亡くなるとみられる。国立社会保障・人口問題研究所の予測はほとんど狂うことはないから、その頃、日本は超高齢社会の終末期に入る。
現在は日本人の8割近くの人が病院で亡くなっている。しかし、167万人の8割が病院で亡くなることはあり得ない。心筋梗塞や脳卒中など救命救急処置が必要な人が入院できなくなる事態が発生し得る。
国は地域包括ケアシステムを導入し、地域で看取る、家で看取る制度の充実に力を注いでいるが、日本全体を見ると在宅医療が比較的よく整備されつつある地域と、まだ十分に整備されていない地域がまだら状に広がっている。厚生労働省の調査によると、6割の人が自宅での死、を希望している。しかし、実際には「いよいよとなった時の医療処置が心配だ」「家族に迷惑をかけたくない」という理由から“病院死”となっている。
在宅医療、なかんずく“在宅死”を希望する人にそれを届ける体制の充実は待ったなしである。地域包括ケアが円滑に進むためには、地区の医師会と行政の密接な連携がカギとなる。加えて在宅医療は多職種連携の最たるもので、医師、看護師、ケアマネジャー、介護士、薬剤師、歯科医、リハビリ担当者など、実に多くの職種の人々が密接に連携して在宅医療を支える。相互の連絡にICTの活用は避けて通れない。例えば、医師と看護師の業務の間にあるグレーゾーンを看護師に任せるとか、在宅歯科診療により、口から物を食べ続けるとか…いろいろな連携が考えられる。
行政は在宅医療を支える様々な支援策を用意している。これらを的確に利用して在宅環境を整え、在宅医療支援チームの援けを得れば、医療知識や技術を持たない家庭でも在宅死は可能である。
在宅死を希望する人に届けるためには、医療従事者の一層の意識変革と、患者・家族も家で死ぬのが当たり前という意識変革がともに強く求められている。
垣添忠生(日本対がん協会会長)[在宅医療]