株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「AMRによる健康危機は本当に起きるのか」具 芳明

No.5033 (2020年10月10日発行) P.60

具 芳明 (国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)

登録日: 2020-09-28

最終更新日: 2020-09-28

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2020年は新型コロナウイルスによるパンデミックが発生し、私たちは新興感染症の急速な拡大が社会に与える影響を目の当たりにしている。では、薬剤耐性(AMR)問題はどうなのだろうか。対策が行われなければ2050年には世界で年間1000万人が死亡する、そしてリーマンショック並の経済ダメージが生じうるとされるAMR禍は本当にやってくるのだろうか?

実際にはAMR問題は既に始まっている。世界的には大腸菌など腸内細菌科細菌の高度耐性が大きな問題となっており、日本でも大腸菌に占めるキノロン耐性や第3世代セファロスポリン耐性の割合が上昇する一方である。10年前には比較的珍しかったESBL産生菌は今や市中感染症の起因菌としてしばしば出会う。AMRが確実に進行する一方で、新薬の開発はまだ十分とはとても言えない。AMRは確実に私たちに忍び寄っている。

徐々に広がっているというだけでは済まない状況もある。今年はコロナウイルスに耳目が集まっているものの、薬剤耐性菌の院内アウトブレイクは発生している。病院や地域におけるアウトブレイクが言わばacute on chronicのパターンで繰り返されながらしだいに拡散の速度が上がっていくことが懸念される。東南アジア、南アジア諸国を含め多くの国では日本よりもはるかに多くの薬剤耐性菌が既に拡散している。多くの人々の国境を越えた往来はいつか再開するだろう。それがAMRの状況にどう影響するかも注視する必要がある。

不意打ちのように突然登場する新興感染症への対応だけが感染症危機管理ではない。予測される問題に備え、事態が大きくならないよう先延ばしを図りながらよりよい対応策を模索し推進する。それはまさにAMR対策の基本方針でもある。AMRは、いつかくるかもしれない危機ではなく、既に目の前にある問題であり、確実に対応していくべき課題なのだ。毎年11月はAMR対策推進月間である。抗菌薬の使い方や感染対策について、AMR対策の観点から見直す機会としてほしい。

具 芳明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)[AMR対策]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top