No.5033 (2020年10月10日発行) P.60
草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)
登録日: 2020-09-30
最終更新日: 2020-09-30
9月25日、日本記者クラブにて、〈コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会〉(代表:小宮山宏 三菱総研理事長/元東大総長)から「医療提供体制の崩壊を防止し、経済社会活動への影響を最小化するための6つの緊急提言」が発表された(会見動画:https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/35715/report)。ご縁があって私も本研究会に参加し、経済界の皆さんと忌憚なく意見交換する機会を頂いたが、その議論の中で様々な気づきがあった。
まず、今回のような研究会の開催に至ったのは、コロナ禍がもたらす日本社会への大きな影響に関する危機感を医療者も経済関係者も十分共有していることが基盤にある。今までは、営利目的の企業の医療への積極的な参入を掲げる経済界に対して、国民皆保険制度を堅持し公益性を守る医療界が対峙するというステレオタイプな対立が、規制緩和の議論などで繰り返されていた印象が強く、場の存在自体が新鮮であった。
その上で、経済側に欠けているのは医療のプロセスのディテールであり、医療側に欠けているのはデータに基づく説得力のある論拠であることが分かった。象徴的なのは新型コロナウイルス感染症に対応した病院における感染症病棟の病床稼働率の予想外の低さに関する議論である。DPCデータからの明白な数値であり、より効率的な運用が必要と主張する経済側に対し、医療側は数字では見えてこない厳重な感染防御下での入院医療の困難さを現場の心理的・肉体的疲労の実感を込めて説明した。データを補完するディテールが見えることで、両者の納得感が生まれ、効率性を上げるためにはむしろ非対応病院の医療者からの支援を得る方策が必要という前向きな議論につながった。足りないのは金やものではなく、実行力のある人材という共通の理解が得られたのは大きい。
まだ、コロナ禍は続く。不毛な対立ではなく、両者の真の意味での連携こそが最小限のリスクで社会を軌道に乗せる正しい道と確信している。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]