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【識者の眼】「奥能登4病院統合は地域医療の未来図か」藤田哲朗

藤田哲朗 (医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長)

登録日: 2025-05-19

最終更新日: 2025-05-16

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2025年2月、石川県の開催する「奥能登公立4病院機能強化検討会」で、奥能登の4つの公立病院を1つの新病院に統合する改革案が提示されました。救急機能や急性期・回復期の入院機能、専門外来を能登空港周辺に新病院として集約し、既存の病院はサテライト診療所に転換して、一般外来と介護や慢性期医療を担うというプランになっています。

プラン自体は、ここ10年ほど推進されていた病院の集約という政策の方向性と合致するもので、意外性がある案というわけではありません。しかし、奥能登の4病院は必ずしも地理的に近接しているわけではないため(統合対象の1つである珠洲市総合病院と能登空港は約40km離れており、所要時間は約45分となっている)、それぞれの病院スタッフをはじめ、関係者にとっては期待と同時に大きな波紋を広げるものだったのではないでしょうか。

医療従事者は職住近接の働き方を希望する方が多い印象があります。比較的女性が多い職場で、共働きが多いということが背景にあるのかもしれません。今回の病院統合の計画は、通勤環境の大きな変化が伴うことが予想され、通勤不可能とまでは言えないものの、日々の生活リズムやワークライフバランスに影響を与える可能性は否定できません。筆者も医療機関で人事をやっているので、人事担当者の立場をおもんばかると、新しい職場までスタッフがついてきてくれるのか、今から不安で胃が痛くなってしまいそうです。

しかし、未来に目を向ければ、このような再編は「現実的な対応」「順当な変化」であるとも考えています。輪島市の将来人口推計は、2040年には2015年比でほぼ半減、生産年齢人口に至っては6割近く減少するという予測で、スタッフの確保を考えると、現状の4病院体制の持続可能性には疑問があります。再編統合は避けて通れない道だったのではないでしょうか。

このような病院同士の広域的な統合は、今後めずらしくなくなってくると考えられます。生産年齢人口が半減するような人口構造の劇的な変化は、半島や離島、中山間地域といった「特殊な地理的条件のもとで起きる特別な出来事」ではなく、日本中の地方都市でどんどん発生していく見込みです。

また、医療・介護の担い手だけでなく、需要サイドである高齢者層も地方を中心に今後減少していきます。現在の医療提供体制をそのまま維持していくことは、需要面(高齢者人口)からも供給面(生産年齢人口)からも、不可能と言わざるをえません。病院経営にかかわる者として、今回の奥能登の4病院再編は決して特殊な事例ではなく、「今後の社会構造の変化を先取りしたパイロットプロジェクト」ととらえ、注目していきたいと思います。奥能登で起こっていることは、みなさんの医療圏でも起こりうることです。

藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長)[病院経営][再編統合医療提供体制

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