株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「公的保険に加入しているコロンビア人男性が治療費を払えず死を覚悟した理由」南谷かおり

No.5034 (2020年10月17日発行) P.60

南谷かおり (りんくう総合医療センター国際診療科部長)

登録日: 2020-10-08

最終更新日: 2020-10-08

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

労作時の胸痛で仕事に支障が出ていることを主訴に来院した60代コロンビア人男性。検査した結果、冠動脈に高度の狭窄が認められ、このままでは心筋梗塞で死亡するリスクが高いことが判明した。スペイン語の医療通訳者を介して治療の必要性を説明するも、本人は仕事を休んで解雇される心配に加え治療費を支払う金銭的余裕もなく、自分は死んでも仕方がないと覚悟を決めていた。

個人の死生観は考え方や環境、また宗教によっても変わるが、医療保障制度が整っていない国では経済的な理由から、発病したら運命だと諦めることも少なくない。しかし、この患者は長年日本で働き公的保険にも加入していたので、高額療養費制度を適応すれば100万円近い心臓カテーテルの治療でも、患者負担は10万円以内で済むはずだった。だが、日本語も制度もよく分からない外国人患者には、色々選択肢があることさえ知らされていなかった。

この患者は調べてみると保険金を滞納しており、制度の適応外であることが判明した。本人は毎月保険料を納めていたのだが、不足分の督促状が日本語だったため、理解できずに放置していた。そこで私たちは役所と交渉し、患者本人に延滞分を分割で支払うという誓約書を書かせ、自己負担が9万円で収まることを確認して、治療を受けるよう患者を説得した。

そして患者の冠動脈には無事にステントが留置され、胸痛発作もなくなり患者は仕事に復帰した。前の病院の入院費が未納で問題視されていたこの患者は、当院では毎月給料日の翌日には必ず来院し、分割で半年かけて治療費を完納した。スペイン語で説明することで患者も全て納得したうえで治療に臨めた結果だと考える。

近年、外国人患者の未払いが問題視されているが、通訳を介して患者の不安や疑心を取り除くことで信頼関係が生まれ、話し合いによってトラブルの大半は解決策を見出せると信じている。

南谷かおり(りんくう総合医療センター国際診療科部長)[外国人診療 ]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top