No.5043 (2020年12月19日発行) P.57
小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科副部長)
登録日: 2020-12-04
最終更新日: 2020-12-04
2019年度の児童相談所における児童虐待相談対応件数の速報値が厚生労働省より発表され、19万3780件と過去最高だった1)。前年度比で21%の増加となる。子ども虐待対応は児童相談所だけではなく、市区町村も行っている(2005年から市区町村が第一義的な児童家庭相談窓口となり、子ども虐待においても市区町村が主体となって対応を進める事となっている)。市区町村の相談対応件数は総務省が統計を発表しているが、児童相談所における相談対応件数と同じくらいの件数が例年報告されており、2019年度は日本で公式に相談対応された子ども虐待は40万件弱となると予想される。この数字は18歳未満の小児人口でみると、およそ100人に1人が通告対応されている計算となる。
虐待の類型別に見ると、心理的虐待が56.3%と最も多く、身体的虐待25.4%、ネグレクト17.2%、性的虐待1.1%と続く。心理的虐待は近年急速に増加傾向であるが、これは警察からの「面前DV」に伴う通告の増加による。面前DVとは、DV家庭で警察通報があり警察官が臨場した際に、そのDVが子どもの面前で行われ、子どもが目撃していた場合を指す。この面前DVに伴う心理的虐待は、以下の2点から、適切に対処しなければならない重要な問題である。1点目はDV家庭の子どもは身体的虐待や性的虐待の合併が多いという点、2点目は、DV家庭における暴力の目撃や暴言への慢性的な曝露は、どんなに小さな子どもでも影響を受け、将来的に内在化問題(抑うつ、引きこもりなど)や外在化問題(多動、攻撃性、非行など)が増加することが示されており、より早期に子どもにとって安心・安全な環境に戻すことで、そのような将来への悪影響を予防できるという点である。
虐待の通告元では、医療機関の実数は微増であるが、通告全体に対する割合では1.9%と昨年と比し減少している。2018年の米国統計では医療からの通告は10.5%で日本のおよそ5倍である2)。我々は、様々な子どもと家族に接する専門職であるにも関わらず、支援が必要な子どもと家族の多くを見過ごしている。その背景には、虐待そのものの捉え方の問題がある。これからは、虐待を「子どもにとって安全・安心が守られているか」という視点で広く捉え、より早期に市区町村と情報共有し地域全体で子どもと家族を支えていく必要がある。
【文献】
1)厚生労働省. 令和元年度児童虐待相談対応件数(速報値). [https://www.mhlw.go.jp/content/000696156.pdf]
2)Children's Bureau, U. S. Department of Health & Human Services. Child Maltreatment 2018. [https://www.acf.hhs.gov/cb/resource/child-maltreatment-2018]
小橋孝介(松戸市立総合医療センター小児科副部長)[子ども虐待][子ども家庭福祉]