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【識者の眼】「食育で小児のアレルギー症状を改善できるか?」楠 隆

No.5048 (2021年01月23日発行) P.58

楠 隆 (龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)

登録日: 2020-12-23

最終更新日: 2020-12-23

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野菜・果物摂取の健康増進効果はよく知られています。野菜・果物の成分であるカロテノイドやポリフェノールなどの持つ抗酸化作用、抗炎症作用が効いているのではないかと言われており、アレルギー予防効果のエビデンスも蓄積されています。我々は滋賀県近江八幡市の小学生600人余りを対象に小2から小5まで食習慣とアレルギー症状の関連を追跡し、継続して果物摂取の多かった子どもはアレルギー性鼻炎や気管支喘息など呼吸器系のアレルギー症状を発症しにくいことを2017年に報告しました1)。また2020年には韓国で400人余りの7歳児を対象とした横断調査において、野菜摂取量と鼻炎症状発現が負に相関することが報告されました2)。このような健康増進効果にもかかわらず、日本人の多くは厚生労働省が示す野菜摂取推奨量である1日350gには達していません。平成30年国民健康栄養調査では平均1日269.2gであり、特に若年層の摂取不足が問題となっています。

今、小児のアレルギー疾患の中で特に増加が目立つのは花粉症を含むアレルギー性鼻・結膜炎です。2005年、2008年、2015年の3回にわたって全国の小・中学生を対象に行われた調査でも、喘息、アトピー性皮膚炎は減少傾向であったのに対してアレルギー性鼻・結膜炎は増加し続けています3)。鼻炎症状は直接生命を脅かすものではありませんが慢性・難治性であり、集中力を妨げて生活の質を低下させます。特に小児の場合は学業成績にも影響します4)。症状が出てから投薬に頼るのではなく、早期からの食事への介入により鼻炎症状が予防できるのであれば、体に優しいだけではなく医療費削減にもつながります。小児への食育がアレルギー疾患の増加を抑制するというエビデンスが今後さらに蓄積されていくことを期待したいと思います。

【文献】

1)Kusunoki T, et al:Pediatr Allergy Immunol. 2017;28:793-800.

2)Oh HY, et al:Pediatr Allergy Immunol. 2020;31:920-9.

3)厚生労働行政推進調査事業補助金(免疫アレルギー疾患政策研究分野)アレルギー疾患対策に必要とされる大規模疫学研究に関する研究

  [https://allergyportal.jp/wp/wp-content/uploads/2020/04/21074358/epidemiological_investigation_2020.pdf] (2020年12月21日閲覧) 

4)Blaiss MS, et al:Ann Allergy Asthma Immunol. 2018;121:43-52.

楠 隆(龍谷大学農学部食品栄養学科小児保健栄養学研究室教授、滋賀県立小児保健医療センター小児科非常勤医師)[アレルギー予防]

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