No.5053 (2021年02月27日発行) P.61
竹村洋典 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学講座総合診療医学分野教授)
登録日: 2021-02-08
最終更新日: 2021-02-08
筆者が地方の大学の総合診療科の教授だった頃、同教室とネットワークを組んでいた医療機関にたくさんの総合診療医がいた。少なからぬ数の地方大学の先生方、行政の方が「なぜ、あなたの構築した医療機関ネットワークに多数の医師がいるの?」と聞きに来られた。普通は給与が高ければ医師が集まると思われるかもしれない。しかし、筆者がいた地方の病院では必ずしもそうではなく、逆に非常に高額な給与を出すような病院に問題がないとは言えない先生が来られていることもあった。では、何が大学の医療機関ネットワークに医師を集めるか。
一つ目は、優れた臨床医。例えば若手医師に「いい診療を自分はできないけど、やってみろ」では人を惹きつけない。臨床ができる医師の背中を若い医師は見たがっている。しかし、多くの医師を集められるような高い臨床能力を持った医師はそんなに多くはないかもしれない。
二つ目は、よい教育、よい研修。今も昔も若手医師は、いい臨床医になるための教育・指導を期待している。高い給与よりも。それ故、施設は教育資源を得るための努力が必要と思われる。しかし、教育はそう簡単には手に入れることができない。お金を出せばすぐ買えるものではない。教育研修システムの構築、教育ができる臨床医、そして必要な教育機器・器具を配置する必要がある。特に総合診療は、診療の守備範囲が広く、また他の診療科、コメディカル、福祉・行政と連携すべき職種も多く、その教育もテクニックが必要である。
教育の場には若い医師が集まる可能性が高いが、若手はパワーもあるし、家庭問題が起こりにくいかもしれない。子供の教育問題などが比較的少ない。そして、そのような若い医師の中から、時間をかけて非常に優れた指導医、そして優れた臨床医が生まれるかもしれない。
三つ目は、健全な組織。ゆるぎない理念・ビジョンがありながら、働く者すべてのニーズを把握して臨機応変に体制を変える必要がある。
四つ目は、上に立つ者の熱い信念。命がけで医療や教育に取り組む。上位者のそんな態度がそこで活動する医師たちを安心させるのかもしれない。しかし上位者がワークライフバランスを保ちながらそれを実行するのは至難の業である。
竹村洋典(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科全人的医療開発学講座総合診療医学分野教授)[総合診療]