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【識者の眼】「非感染性・慢性疾患の疫学者が語る、ワクチンと有害事象」鈴木貞夫

No.5056 (2021年03月20日発行) P.52

鈴木貞夫 (名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)

登録日: 2021-03-08

最終更新日: 2021-03-08

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新型コロナ禍も1年以上が経過し、残念ながら2回目の中止を決めた年中行事もある。一方で幸いなことに、当初は遠い先と思われていたワクチンが開発、承認され、既に日本国内でも接種が始まっている。ただ、希望者全員に接種が終わるのは、供給の問題もあり少し先のこととなる。

執筆時点(3月8日)で、国内で新型コロナワクチン接種後に亡くなったのは、ファイザー社開発のワクチンを接種した60代女性の医療従事者ひとりで、死因はくも膜下出血と推定されている。接種直後の異変の報告はなく、基礎疾患もなかった。この症例について、接種をした医療機関は「接種との因果関係は現時点で評価できない」と報告している。

治験第3相の臨床試験(RCT)では、ランダム割付により接種群と同等の対照群(プラセボ群)が設定され、有害事象についてのワクチンとの因果関係が厳密に評価される。しかし、これをクリアして一旦販売されたものについては、このような比較はできない。厚生労働省は、この症例について専門家部会で詳しく検証するとしているが、個別の因果関係の検討は、あらかじめわかっているアナフィラキシーショックなどの副反応を除けば困難である。このあたり、事後に個々の検証をすればワクチンとの因果関係は分かると漠然と思っている人がおり、疫学的な説明が難しいところでもある。

この例については死因がはっきりしているので、海外での治験や接種後の報告でも新型コロナワクチン接種後にくも膜下出血が増加するという知見は報告されていないこと、検査や剖検によりくも膜下出血の原因が見つかる可能性があることなど、因果関係を否定するための手掛かりがある。しかし、定型的でない症状など、個々に検証するといっても、検証方法がないもの、あるいは方法にエビデンスがないものも多い。

アメリカの疾病対策センターは、2月の集計でワクチン接種後の死亡確率は0.0015%で、死亡した理由にワクチンの安全性の問題を示すような一定のパターンは見られないとしている。すべての国でこのような情報を共有し、ワクチンの安全性についてたえず検討することは不可欠であろう。

ワクチン接種後の症状の因果関係と報道のあり方はワクチン行政にとって極めて重要で、HPVワクチンでは大きな失敗を経験している。新型コロナワクチンで同じことを繰り返さないよう、情報の収集と、適切な情報公開、公正で冷静な報道が期待される。

鈴木貞夫(名古屋市立大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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