No.5080 (2021年09月04日発行) P.58
草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)
登録日: 2021-08-23
最終更新日: 2021-08-23
第5波のただ中にあって、政府、そして日本医師会も自宅療養する感染者への訪問診療を積極的に展開するように全国の開業医に呼びかける状況にようやくなった。昨年夏の第2波を経験した2020年9月時点で、筆者の所属する〈コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会〉では以下の提言を発出した。「諸事情のために宿泊療養が難しく、やむを得ず自宅療養がなされる場合も例外的に許容されるべきだが、その場合には、保健所ではなく、地域の診療所や小規模病院が経過をフォロー。患者の病状の変化に応じて速やかに感染症対応病院に紹介するルートを確保。自宅療養者と外部との接触が的確に制限されるよう、生活物品の供給など生活サポート体制も整備されることが重要」
しかし、こうした備えがなされることはなく現在に至り、ひたすらお願いベースで呼びかけるもそれに応じる診療所は非常に少ない。いや、むしろ応じたくても応じられないのが現実であろう。つまり、平時の安定した在宅患者の訪問診療や往診に対応していない診療所が、リスクが高く繊細な判断が求められるコロナ感染患者の在宅医療に取り組むのは、危機とはいえ難しいのは当然であろう。我々医師は自分自身の知識や経験が乏しい領域に無闇に取り組まないように訓練を受けており、それは無意識の行動規範である。
当面は今まで真摯に在宅医療に取り組んできた数少ない医療者でできる限りの取り組みを続けるしかない。失われる命もあるだろうが、それが日本の医療の限界である。医師として本当に忸怩たる思いだ。
いつかこのパンデミックを乗り越えたときに、この痛烈な失敗を忘れることなく、一般の診療所が在宅医療に取り組むことを義務化する改革を展開すべきである。そして、その先では、「かかりつけ総合医制度」によってプライマリ・ケア医療を全国民に確実に提供するシステム改革へと舵を切っていく覚悟が必要である(参考文献「コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会」講演資料 https://cigs.canon/uploads/2021/04/210416_kusaba.pdf)。
感染防止に関する国民の行動を声高に批判するよりも先に、我々医療者は自己批判に立脚した改革の姿勢を自ら国民に示すべきだ。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]