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【識者の眼】「感染症は人間学」槻木恵一

No.5080 (2021年09月04日発行) P.56

槻木恵一 (神奈川歯科大学副学長)

登録日: 2021-08-25

最終更新日: 2021-08-25

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う蝕や歯周病は、細菌感染症である。国民病と言われており罹患者数は多いが、口腔ケアにより予防効果の高い疾患でもある。しかし、一辺倒な歯磨き指導だけでは、必ずしも改善しないことを経験している。甘いものが好きな人はう蝕になりやすいとか、タバコは歯周病を進展させるとか、予防には生活習慣の改善が極めて重要な要素なのである。さらに歯科医は、患者の口腔ケアへのモチベーションの状態、性格などを充分把握し口腔ケアの指導を行っている。すなわち、「人を見る」ことをしなければならないのである。感染症のコントロールは、人間の行動学と不可分の関係にあるといえる。

新型コロナウイルスの制圧にも同じことが言えないだろうか。先日、デルタ株の感染蔓延状況について、あるテレビ番組の街頭インタビューで、「自粛しない人に罰はないし、しっかり自粛してもメリットがない」と述べている人がいた。勝手な事を言っているなと思うが、今の多くの国民の真理をついているような気もする。日本人は、指導者の言う通り、自粛に積極的に取り組む賢明な国民であるが、現在、その指導者の言葉が響かなくなっている心理を説明してはいないだろうか。

指導者は感染症という病気を深く多面的に理解し、大衆をしっかり見て欲しい。今は、科学的な予想に基づく出口戦略の構築と、一度決めたら厳格な運用を行う信頼感ある政策実行を、科学と政治が両輪となって進めることが求められている。しかし、人の心をつかむことができなければ、結局のところ感染症の克服は遠のくばかりである。

槻木恵一(神奈川歯科大学副学長)[新型コロナウイルス感染症]

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