No.5083 (2021年09月25日発行) P.65
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2021-09-06
最終更新日: 2021-09-06
先日、大手薬局チェーンの一部店舗に対して、厚生局が「保険薬局の指定の取消」を行ったとの発表がありました。
厚生局側の発表によれば、取消に至った理由は「他の保険薬局で行った調剤を当該保険薬局で調剤を行ったことにした」及び「他の保険薬局で調剤したように装うことで、特定の医療機関に係る処方箋の割合をさげ、調剤基本料1の施設基準に適合しているとの虚偽の届け出を行った」点とされています。内部告発により個別指導が開始され、さらなる調査の必要性が生じたことから監査に移行、今回の行政処分に至ったようです。
クリニック経営という観点からは、保険医療機関の指定取消は致命的です。
一方で、毎年、数千件の個別指導が行われる中で、保険医療機関の取消がなされるケース(医科)は数件であるにもかかわらず、「個別指導=保険医療機関の取消のリスク」というイメージが独り歩きしているようにも感じます。
もちろん、悪質な診療報酬を請求しているような医療機関は淘汰されるべきでしょう。保険医療機関の取消がなされているケースはいずれも、診療行為の回数(日数)、数量、内容等を実際に行ったものより多く請求する「付増請求」や実際に行った診療内容を保険点数の高い他の診療内容に振り替えて請求する「振替請求」といった「故意の不正」と認定されたケースです(このような場合、不正請求額が極めて多額とまでは言えないケースであっても、厳しい対処がされています。なお、今回紹介した薬局のケースでは、170万円余りが不正請求額と認定されています)。
ちなみに、本件のように内部告発が個別指導の端緒になるケースは、意外と多いです。ただ、内部告発がすべて正しいわけではありません。退職した職員が、腹いせに内容を誇張して内部告発を行ったケースも存在します。
個別指導は、本来、摘発の場ではありません。診療報酬請求の適正なあり方を考える機会として運用されるべきでしょう。クリニックとしても、厚生局に「故意の不正」と誤解されないよう、カルテ記載の整備を含め、日ごろから診療報酬に対して「個別指導のリスクがある」という認識のもとで、対応していくことが重要だと思います。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]