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【識者の眼】「日本の教授の問題点」渡辺晋一

No.5093 (2021年12月04日発行) P.61

渡辺晋一 (帝京大学名誉教授)

登録日: 2021-11-26

最終更新日: 2021-11-26

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前回(No.5091)日本の専門医は必ずしも世界に通用しないと述べたが、その原因のひとつに専門医を育成する教育機関がある。感染症科や腫瘍科のように急ごしらえでできた診療科はまだ仕方がないかもしれないが、古くからある診療科でも問題が多い。たとえば診療科の責任者である教授であるが、米国では主任教授は日本と同様一人であるが、資金を集めることができる人が選ばれることが多い。そしてその下に臨床、教育、研究の3種類の教授がいて、それぞれ役割分担と責任が明確になっていて、臨床、教育を担当する教授はMDであるが、研究教授はMDでないことも多い。一方日本では、臨床教授などが最近生まれたが、人手不足解消のために集められた開業医などが多く、正式な教授選などの手続きを経たものではない。

いずれにせよ最近の日本の教授は、臨床の腕ではなく研究業績で選ばれることが多いため、手術が下手な医師が外科教授に選ばれることもある。そのため日本では、教授をめざす医師の多くは研究業績を上げるために、海外に留学する。研究目的なので、留学先は基礎医学のこともある。さらに日本の医師は欧米の国の医師免許を持っている人はほとんどいないので、医師として働くのではない。医者として油が乗った貴重な時期を、ひたすら動物実験や試験管内実験などの研究助手として働くことになる。また、患者を診療しないので、海外で普通に行われている世界標準治療を知る機会はほとんどない。しかし帰国すれば、研究業績があると教授になることが多い。本来は研究教授になればよいのだが、製薬会社からの謝礼も期待できるため、臨床科の教授をめざすことが多い。

一旦臨床の教授になれば、研究だけでなく日本では患者の診療や医学教育もしなければならない。そのため治療に関しては、昔からある日本の治療を踏襲するか、製薬会社に治療の教えを乞うことになる。当然製薬会社は自社製品の売り上げを伸ばすために、このような教授を取り込み、講演会などで自社製品の宣伝に利用する。その結果聴講者は、その講演内容を信じるようになり、やがて学会員ばかりでなく大学病院の医局員もその治療を踏襲することになる。そのため日本の治療は、患者よりも企業の利益を優先するようになり、世界標準治療とは程遠いものになってしまうことが多い1)

【文献】

1)渡辺晋一:学会では教えてくれないアトピー性皮膚炎の正しい治療法. 2019, 日本医事新報社.

渡辺晋一(帝京大学名誉教授)[医学部]

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