No.5099 (2022年01月15日発行) P.64
上田 諭 (戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)
登録日: 2021-12-24
最終更新日: 2021-12-24
医療・介護の場で、「ニンチ」という言葉がよく聞かれるようになった。「この人にはニンチがある」「ニンチが入っているから注意」といった使い方である。
認知症と言うべきところを、略して使う習慣が広がっているようだ。これが適切なことだとは思えない。
確かに医療の場では、病名を略して言うことがある。脳卒中を「アポ」、結核を「テーベー」、乳癌を「マンマ」と言ったりするなどである。しかし、これらと認知症をニンチと呼ぶこととは大きな違いがあるように思われる。前者が英訳からの単なる略称であるのに対して、ニンチには、認知症の人はこんなものとおとしめて見ている印象が感じられるからだ。
「認知」とはもともと障害ではなく、知的能力があることを示す言葉である。本来なら、認知の障害、認知機能の低下という表現で用いられるべきであろう。15年余り前、差別や偏見をなくそうと、痴呆(症)から認知症に名称が変更されたときにも、「認知障害」「認知低下症」の名称にすべきだという議論があった。もともと能力があることを示す「認知」が今や名称として定着し、「ニンチ」が差別を助長しかねない使い方をされているのである。
単なる略称として使っているだけだ、おとしめて見ている意識などない、言いう人たちもいるだろう。では、「ニンチ」を本人や家族の前で堂々と言えるだろうか。
差別は受ける側の意識に目を向ける必要がある。差別する気がないといっても、呼ばれる側が不快ならそれは問題があるだろう。最近の調査研究(2021年)では、「ニンチ」を「認知症」より不快に感じる家族が35%いる(感じないは25%)という結果が出ている。
ニンチという呼び方はやめて認知症と呼びたい。
上田 諭(戸田中央総合病院メンタルヘルス科部長)[認知症医療]