No.5117 (2022年05月21日発行) P.62
宮坂信之 (東京医科歯科大学名誉教授)
登録日: 2022-04-11
最終更新日: 2022-04-11
偽性アルドステロン症は、アルドステロンが血中に増加していないにもかかわらず、原発性アルドステロン症とよく似た症状を呈する。低カリウム血性ミオパチーが有名であり、「筋肉に力が入らない」「こむらがえりをする」などの筋症状や血圧上昇に伴う頭重感を訴えることが多い。代謝性アルカローシスもみられる。糖尿病が急に悪化することもある。筋力の低下が進行すると、歩行困難になり、入院のきっかけとなることも多い。
偽性アルドステロン症は、甘草(カンゾウ)やグリチルリチンを主成分とする医薬品の連用によるものが多い。カンゾウやグリチルリチンは、漢方薬、風邪薬、胃腸薬、肝疾患の薬などに入っているので、処方をするときには注意が必要である。
患者は女性に多く、比較的高齢者が多い。体表面積や体重が少ない人、また、高齢者などは筋肉量は少なく、カリウムの貯蔵が少ないことが関係しているのであろう。薬剤投与開始数カ月以内が起こりやすく、長期連用でも起こる。当該医薬品を中止しないと、症状は一向に良くならない。カリウムの錠剤だけを補給しても、なかなか是正されない。時にはスピロノラクトンの投与も必要となる。
低カリウム血症が持続すると、心室性不整脈や脱力による転倒なども起こることがある。本症を起こしうる薬は服用している患者は、定期的な血清カリウムの測定と心電図測定がモニタリングに良い。
筋肉内に多いCK(クレアチンキナーゼ)は、低カリウム血性ミオパチーがあると血中に増加してくる。ひどい時には横紋筋融解も起こすことがあるほどである。
原発性アルドステロン症のある患者では血清アルドステロンの過剰産生があるが、本症ではむしろ低下を示す。
血清カリウムは臨床上、最もよく測定をする電解質のひとつである。血清カリウムが3.5mEq以下に下がったときは、本症も鑑別に入れる必要がある。疑いさえすれば、本症の診断と治療は簡単である。本症の診断のコツは、まず偽性アルドステロン症を疑うことである。
宮坂信之(東京医科歯科大学名誉教授)[甘草][グリチルリチン]