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【識者の眼】「鈍感なのは発達障害? 自己愛パーソナリティー?」堀 有伸

No.5120 (2022年06月11日発行) P.58

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2022-06-01

最終更新日: 2022-06-01

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他人の心情に鈍感で、「空気を読めない」言動を繰り返す人が話題になることがあります。

発達障害が世間で知られるようになってくると、「空気を読めない」のは、その人に自閉スペクトラム症の傾向があるからではないか、と指摘されることが増えているようです。しかし、ここで話を先に進める前に、注意が必要なことがあります。確かに自閉スペクトラム症では、「空気が読めない」ように見える人が少なくないのですが、「空気を読めない」人が皆、自閉スペクトラム症なのではありません。たとえば、統合失調症で社会的な物事への関心が低下していることがありますし、うつ病の症状が強い場合で、エネルギー不足で周囲に十分な配慮を行う力を失っている場合もあります。他にもいろいろな場合が考えられます。

何回か本欄で紹介してきたナルシシスティック・パーソナリティーも、自閉スペクトラム症との鑑別が難しい場合があります。原理的には、発達障害の場合には、先天性等の要因により、「他者の心情等を推察する能力」が弱いことで、鈍感に見えてしまうのです。言わば、ハードウェアの問題です。この場合に「空気を読めない」という事態は、「生まれつき視力が弱い」「背が高い」と同じように、それ自体には価値判断を含まない、ニュートラルな内容なのです。一方でナルシシスティック・パーソナリティーの場合には、「他者に依存していること・その重要性を否認していること」などの心理機制が関与しています。ソフトの問題です。その場合でも、「傲慢だから否認している」ととらえるか、「本人にとってトラウマと感じられる体験が関与しているので、そのような心理的な内容を回避せざるをえない」と理解するのかで、大分ニュアンスが異なってきます。また、原則はそうなのですが、実際には発達障害とパーソナリティー障害の鑑別は難しい場合もあり、さらに、両方の合併もありえます。ご理解いただきたいのは、どちらの場合でも、強い叱責のような罰を与えることで、性急な変化を求めることは、望ましくない結果につながることが多い点です。

精神医学的な診断名が、単なるレッテルを貼ることに終わらず、その内面を周囲の人が正しく理解し、社会の中でよりよい関係性をつくるために役立ってくれることを願っています。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[自閉スペクトラム症ナルシシスティック・パーソナリティー

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