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【識者の眼】「コロナ禍を経て今後必要とされる医師像とは?」井上貴昭

No.5142 (2022年11月12日発行) P.58

井上貴昭 (筑波大学医学医療系救急・集中治療医学)

登録日: 2022-10-20

最終更新日: 2022-10-20

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約2年半にわたる新型コロナウイルス感染症COVID-19)の世界的蔓延も、診断技術の進歩、治療法の発達、予防法の確立により、ようやく様々な分野で規制緩和の社会風潮が広がりつつあります。本シリーズ第9回「全身に影響が及ぶCOVID-19は敗血症そのもの(松嶋麻子先生著)」でも取り上げられましたが、ウイルス感染症を契機に全身の臓器障害が惹起され、回復後にも身体的・精神的・認知能力、ひいては家族ケアにも影響を及ぼすCOVID-19はまさに敗血症そのものと考えられます1)。様々な診療技術の発達の一方で、今回の一連のCOVID-19の蔓延を通じて、日本における感染症診療や集中治療の脆弱性が明るみになったことは紛れもない事実であると考えられます。

これを受けて文科省では、質の高い大学教育推進プログラムGP(Good Practice)の課題として、「ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業」を公募し、COVID-19拡大で明らかにされた、医師の地域偏在および診療科偏在や高度医療の浸透、地域構造の変化等の課題・脆弱性に対応するため、将来、地域医療に従事する意思を持つ学生を対象に地域にとって必要な医療を提供することができる医師教育プログラムの開発を始めました2)。つまり、感染症に強く、集中治療に鼻が利き、状況に応じて災害対応、緩和ケアの判断がつく人材育成、ということができます。

当大学でも総合診療科、救急・集中治療科、感染症科、そして緩和ケア科が連携し、感染症の初期診療、重症化の予見と集中治療必要性の判断、多数感染症患者発生時の災害認識とトリアージ、そしてbest supportive careの適応判断と説明・緩和ケアの導入など、状況に応じて柔軟に対応できる医師を養成するプログラムの開発を始めています。総合診療、感染症、敗血症、集中治療、災害医療、緩和ケア、と一見するとまったく異なる領域が連携することの重要性と、各々のエキスパートが意外にも少ないことが今回明らかになったことは、次の時代の人材育成に向けての重要なきっかけになったと思われます。

今後も懸念される様々な新興感染症に対応するためにも、この2年半に及ぶ様々な取り組みがレガシーとして次世代の育成に発展することを願います。

【文献】

1)松嶋麻子:医事新報. 2020;5028:56.

   https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=15371

2)文部科学省:ポストコロナ時代の医療人材養成拠点形成事業.

   https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/iryou/2022001_00001.htm

井上貴昭(筑波大学医学医療系救急・集中治療医学)[新型コロナウイルス感染症][敗血症の最新トピックス

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