G7 広島サミットにおいて、2023年5月20日に首脳コミュニケ(G7 Hiroshima Leaders’Communiqué)が発表された。ウクライナのゼレンスキー大統領の参加などの大きな政治的な動きだけに光が当たり、日本国内ではほとんど報道されなかったが、保健医療に関しても重要な課題がいくつも提示された。ワクチン製造能力強化やパンデミック基金など国際保健への投資を強調するとともに、地道な取り組みへの言及があったことに注目したい。
たとえば、「プライマリー・ヘルスケア(PHC)の支援」や「学校給食プログラムを通じたものを含む健康的な食事へのアクセス」が明記された。PHCや学校給食プログラムという、先端医療ではなくどちらかというと地味な保健医療の課題が、きわめて政治的な首脳コミュニケの文書に記録される時代になったことを素直に喜びたい。
思い返せば、保健医療分野の世界戦略に大きなインパクトを与えた日本開催のサミットがあった。2000年に沖縄県名護市で開催された九州・沖縄サミットである。そこで議論されたエイズ・マラリア・結核の三大感染症対策が、サミット後の見事なフォローアップが契機となり世界の大きな潮流を生み、グローバル・ファンドの設立など現在につながる行動に結びついた。このことは、いまも世界のグローバルヘルスの専門家から高く評価されている。
その意味では、いままでのサミットでほとんど語られることのなかったPHCや学校給食について、今後どのように発展させるのかという戦略が問われている。会議で取り上げられることが最終目標でないことは、皆が理解しているはず。G7 広島サミットを一過性のお祭りに終わらせるのではなく、世界の保健医療の現場で実現していくためには、国境を越えて官民が協力する地道な取り組みが必要である。PHCや学校給食だけでなく、サミットで言及された「水と衛生(WASH)」や「性と生殖に関する健康と権利(SRHR)」なども、世界中で実際にそれらの保健医療サービスを切望している人々が数多くいる。
G7 広島サミット首脳コミュニケの文言が、それを本当に必要としている世界の恵まれない地域の人たちの手に届くことを願いたい! そのために、日本政府が全力を挙げて取り組むことに、大いに期待しつつ注視していきたい。
中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[プライマリ・ヘルスケア][学校給食][G7広島サミット]