医師がSNSで情報発信をするのは、もはや当たり前になっている。多くの医師がX(旧twitter)やInstagramなどのプラットフォームで情報発信を行い、中には数十万人のフォロワーを持つ「医師インフルエンサー」も登場している。しかし、医師がSNSに投稿することには、実名、匿名にかかわらず様々な問題点や危険性が潜んでいる。
最も深刻なものは、意図せず患者情報を漏洩してしまうリスクである。ほかにも、軽い気持ちで投稿した内容が「医師の公式見解」として広まり、誤った医療情報の拡散につながるといった危険性がある。炎上リスクも無視できない。炎上は医師の仕事や生活に大きな影響を及ぼす。解剖の不適切写真をめぐる炎上は記憶に新しい。
最近、医師のSNS利用をめぐり、問題を提起する事例が相次いでいる。
1つは、医療事故を起こした医師とされるアカウントがXに登場し、盛んに自己弁護的な投稿を行っている事例だ。被害に遭われた方のご家族が困惑している。もしアカウントが本物だとしたら、係争中の当事者がSNSを利用し発言することが倫理的に許されるのだろうか。また、たとえ偽アカウントであったとしても、患者や家族を傷つける投稿を行うアカウントに対し、どう対処すればよいかという問題を提起する。
もう1つは、SNS上で有名な医師国家試験(国試)の受験生が、国試に合格し、医師免許を取得したものの、研修病院が見つからないという事例だ。不採用の理由は不明ではあるが、おそらくこの新人医師を雇用することは、情報漏洩や悪評等のリスクにつながるとみなされたのだろう。
このように、医師のSNSの利用は、時に患者や家族、そして医師自身のキャリアに影響を及ぼす可能性がある。
医師によるSNSの活用は、正確な医療情報の普及や健康啓発など社会的意義も大きい。しかし、発信には常にリスクが伴うことを認識し、細心の注意を払う必要がある。医療プロフェッショナルとして、責任ある情報発信を行っていくにはどうすればよいか。私自身も実名でSNSを利用している当事者として、考え続けていきたい。
榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[SNS][社会的意義]