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医業経営ツールボックス 閉院編 Vol.1

◆Vol.1 医院閉院を考えるベストな時期は?

35年間盛業中(自己所有・非医療法人)後継者不在のため閉院を検討しています。閉院、あるいは承継(賃貸・売却)について迷っています。閉院の場合の手続き、承継(賃貸・売却)の場合の効果的な時期・方法などを知り、検討材料にしたいのですが。

閉院あるいは、承継のいずれにしても、急病などの不測の事態以外であれば、検討時間は十分に取りたいものです。最終的には、最低でも1年前には具体的なアクションが起こせることが理想です。

閉院の場合は手続きが多岐にわたります。洩れなく行うための時間を十分に、承継が選択肢にある場合は、営業権(のれん代)評価の点で大きな差が出ることが考えられます。余裕を持って検討を開始しましょう。

まず、下記にそれぞれに必要な手続き・検討事項などをご紹介します。

●閉院の場合
医院閉院は、ただ業務を止めるという具合にはいきません。閉院のための種々の手続き(資料1が必要となります。また、閉院前に検討が必要な事項(資料2もございますので併せてご紹介します。いずれも、時期としては1年前頃から詳細なスケジュールを検討なさることを、お薦めします。ただし、個別に追加手続きが必要となることもありますので、税理士・社会保険労務士・各行政機関・コンサルタントなどに確認を行ってください。
資料1の内容で、1〜6については医院の閉院届に関連する内容、7〜12についてはスタッフの社会保険関連の内容となります。

資料1 閉院にあたり必要な手続き書類一覧
手続き種類 申請先
1 診療所廃止届 保健所
2 X線廃止届※1 保健所
3 保険医療機関廃止届 厚生局
4 麻薬廃止届 都道府県庁
5 事業廃止届※2 税務署
6 医師会退会届※3 医師会
7 雇用保険適用事業所廃止届 ハローワーク
8 労災保険確定保険料申告 労働基準監督署
9 雇用保険喪失届 ハローワーク
10 雇用保険離職票 ハローワーク
11 健康保険喪失届+健康保険証回収 健康保健加入団体
12 スタッフの退職証明書の発行 院内
※1 機器廃棄証明書添付義務あり・X線フィルムは3年間保管が必要
※2 完全廃業の場合に必要  ※3 加入者のみ
資料2 閉院時に検討が必要な事項
検討が必要な内容 注意したい点
保管義務のある書類の保管方法 カルテ5年間・X線フィルム3年間他、保管義務が課されている物をチェック
医療機器の処分 X線機器は廃棄証明書取が必要
残存医薬品の処分 返品可能・不可能の分類と廃棄方法
特に返品不可能な医薬品を処分する場合は要注意
スタッフ・取引業者への告知時期 3ヶ月前程度が目安
患者様への告知時期 スタッフ・取引業者への告知が完了後、随時が目安

●承継・譲渡の場合
閉院後に承継先や譲渡先を決めれば良いという考えは、残念ながらお薦めできません。
ご病気等でやむなく閉院の場合はいたし方ありませんが、特に承継の場合可能であれば、開業中に承継することが、承継するドクターにも患者様にも先生ご自身にもメリットがあるとお考えください。
また、承継(賃貸・売却)の場合、営業権(のれん代)の評価がどうなるかが重要なポイントとなります。当然のことながら診療時間を短縮したり、診療日を減らした後の営業権評価額は低くなります。もし評価額を高く設定するご希望がある場合は、評価基準となる収益は多い方が良いということになります。その場合は、診療時間や診療日を少なくする前に、承継なさる方法をお薦めます。
良い承継者が見つかった後は、閉院予定の3ヶ月前には、職員と取引業者に通知します。取引業者・職員の中でも重要取引業者から先に、職員もリーダー的存在から先になど、その順番を誤らないような細心の注意が必要です。
その後患者様への通知となりますが、可能であれば承継者とともに1〜3ヶ月間くらい、引き継ぎをかねて患者様を診ることをお薦めします。それにより患者様の閉院にまつわる不安の一部を取り去ることができるとお考えください。もちろんその後に関しては、承継者との相性がありますので、全ての患者様が残ってくださるとは限りませんが、長年の患者様への先生の思いは十分に伝わることと思います。

価格については、先の営業権の他、建物・内装・売却の場合の土地代など諸々の個別条件が関係するためここでの明記は避けます。
最終的には、院長交代による来患数減少も考えられますので、金額の多寡よりも妥当な価格で信頼できる承継者を見つける事が、先生の築いてこられた財産を最大限生かし、永年の患者さんも喜ぶ承継での閉院の形とお考えください。

以上、閉院と承継を検討なさる上で、まず知っていただきたい内容をご紹介いたしました。

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