ときどき登場する孫の聡、3歳、なにを思ったか、山へ歩きに行きたいという。ちょっと歩いただけで疲れたとかいうからダメ、と言っても、絶対に歩くからと言い張る。
しかたなく連れて行くことに。行き先は、思案の末、石切劔箭神社、通称・石切さんに決定。山というほどではないが、大阪平野の東、生駒山の麓である。この神社には坂道の参道があるので、食べ物で釣りながら歩いていただこうという算段だ。
案の定、歩き出すなり疲れただのお腹がすいただのと文句をいう。しかたがないから、みたらし団子を買い与えた。そしたら、団子の蜜を最後までなめ上げる。まるで落語の「初天神」に出てくる金坊やないの。
そこそこ歩いてはくれたけれど、しんどいと言っては肩車、下り坂では走りっこと、結構疲れた。でも、こういうことができる機会はそれほどなかろうと思うとしみじみ楽しかった。英語では、このように、誰かとの関係をより強くする充実した時間のことをquality timeというらしい。
石切さんは「でんぼ」の神様である。でんぼ、最近ではほとんど使われないが、「おでき」、膿瘍のような腫れ物を指す大阪の方言だ。そこから転じて、石切さんは、いつの頃からか「がん封じ」の神様になっている。
お百度石のある神社は多いが、実際にお百度を踏んでいる人はほとんど見ない。ところが、ここ石切さんだけは例外だ。陽気のいい日曜日の昼頃だったせいもあるだろうけれど、100人近くもの人がグルグルと回りながらお参りしておられた。
代参だろうか、若い人も多かった。今の世の中、これでがんが治ると思っている人はそういないだろう。それだけに、愛する人を思う気持ちが伝わってくるような気がした。きっと、ここでのお百度は、がんに病んでいる大事な人とのquality timeなのだ。
大阪出身のノンフィクション作家・宮田珠己さんが奇書・『ニッポン47都道府県正直観光案内』(本の雑誌社)の大阪府のところで、真っ先に書いておられるのが、この石切さん。さすが、それだけのことはある。
神社もさることながら、なにしろ参道がおもしろい。昭和40年代からタイムスリップしたかのようなお店が並んでいる。閑散としているかと思っていたが、外国人観光客までいて楽しく賑わっていた。なんだかほっこりした春先の1日でありました。
なかののつぶやき
「石切さんの参道には、よもぎうどん、ひろうず(がんもどき)、固焼きせんべい、などいろんな名物が売られてます。他にも、お豆屋さん、和菓子屋さん、さらには、占い屋さんが密集している区域まで。なんともレトロな雰囲気が素晴らしくよろし。どう考えても時代遅れなんで、廃れているのではないかと心配していたんですが、杞憂でしたわ」