『外来でのこの一言!』をお読み頂けたでしょうか、と問いかけたところ、「お医者さんの心ってとても奥深いものですね」という言葉が返ってきました。この方はある難病のため、在宅で長期療養されている方です。この本を企画した学会の会長として、これほど心にしみるありがたさを感じたことはありません。
さて、このたび日本プライマリ・ケア学会では、『外来でのこの一言!』の続編として『在宅でのこの一言!』を発刊することになりました。私たちの学会は医療関係者と患者さんや家族、広くは国民との心豊かな関係を築くためにコミュニケーション・スキルの向上に心がけています。在宅では外来より少し対話の場面が狭くなりますが、患者さんと家族を中心にし、介護者や看護師など多くの職種が加わり、より密接した、心の通う言葉が交わされています。そこはまさに療養者の生活の場だからです。療養環境の整備が進み、医療や看護・リハビリなどの機能が高度化する中で、質や安全面での評価が問われようとしています。予防面を含め療養者や家族とのよりきめ細かな対話が要請されるようになりました。厚労省の統計によりますと、在宅で死を迎える方が少なくなり、病院・施設での死亡が八〇%を超えています。しかし、高齢者の多くが自分の生涯を自宅で終えたいと願っています。この願いを達成するのは私たち医療者の責務だと考えています。
この本では、今の在宅療養の現場がどのようなものなのか、医療関係者の「この一言」からくみ取れると思います。日常的に交わされるさりげない一言が、療養者の心の悩み、痛みを和らげ、癒しにつながるとすれば、全人的医療を推進する私たち学会の理念が達成されるものと考えています。さらに学会としては、外来、在宅を問わず、医療関係者の一言が医療の質の向上にどのように役立っているのか、改めて検証したいと考えています。
この本は、『外来でのこの一言!』同様、医療関係者のみならず、多くの国民の皆様にもお読み頂き、国民や療養者から医療関係者への一言として問いかけて頂ければありがたいです。
最後に本書の出版に当たり、一言を寄せて頂いた会員の皆様と、多大なご支援を頂きました日本医事新報社に、深く感謝の意を表します。
平成18年1月
日本プライマリ・ケア学会会長 小松 真