株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「新型コロナウイルスの訪問看護への影響」齋藤訓子

No.5010 (2020年05月02日発行) P.60

齋藤訓子 (公益社団法人日本看護協会副会長)

登録日: 2020-04-22

最終更新日: 2020-04-22

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新型コロナウイルスの対応で新年度の始まりに大きな水が差されました。春は、新学期、新入生、新入職員、新社会人などなど「新(あらた)」が何かとついています。門出の季節を桜の舞う中で迎える日常がどれほど愛おしいか、このような状況になって改めて思います。緊急事態宣言で国民には人との接触を7割〜8割減を求められていますが、頭ではわかっていてもこの閉塞感がいつまで続くのかと途方に暮れております。

しかし、看護サービス現場では途方に暮れる間もありません。自宅に帰れない、院内感染が起こるのではという過度な緊張、そして外に出ればいわれのない差別という現実です。先般、訪問看護師が移動中に「菌をばらまくな」という暴言を浴びたというネット上の書き込みがありました。思わず反応して全文を読みましたが、看護師は病院にいるものという認識があり、外に出て、ご自宅で療養する人を訪問してケアをする訪問看護という仕事の認知の低さが改めて顕在化したと感じました。訪問看護師は約166万の看護職員のうち約4万7000人しかいませんし、また利用者数も入院患者数や外来患者数と比べたら圧倒的に少ないです。看護職は24時間365日、ベッドサイドにいるのだと本会が主張しても、世間は、療養に必要なベッドは病院という建物の中にあるもので、家でのベッドも含まれるとは認識できないと思います。しかし、看護職は病院にいるものというこの認識こそが、社会の中の看護の価値がなかなか高められなかった経緯だろうと勝手に考えています。

今はコロナの影響で医療従事者に目が向けられており、これを機に医療従事者への理解がより進むことを期待しますが、非常事態にならないとこの価値が認識されない現実です。在宅看護は非常事態であっても平常時でも、病や障害、そして老いを受け止め、時に医療や介護を活用しながら臨機応変に、自分なりの暮らしを継続し、人生を全うする支援を行っています。今後、在宅看護の需要が大きくなることは予測されているものの、人材確保の厳しさがいつも指摘されます。本会の訪問看護師倍増対策の一つに、医療機関からの訪問看護を増やすことも提案しています。医療機関からの退院直後、不安定な状態の人を主に担当し、その後安定したら地域の訪問看護ステーションに移行するという連携と役割分担の試行事業を本年度開始しますが、成果を可視化して地域の看護提供体制づくりを提案します。

齋藤訓子(公益社団法人日本看護協会副会長)[新型コロナウイルス]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top