重症疾患罹患後に社会復帰を果たすためには、急性期からのリハビリテーションだけでなく、そのエネルギー源となる栄養も重要です。ICUに入室するような重症患者の栄養療法はどのように実施していけばよいのでしょうか。実は『日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024』が日本集中治療医学会から公開されました。これは前回から約10年ぶりの改訂になります。
今回はこの『日本版重症患者の栄養療法ガイドライン2024』を紐解いていきます。筆者もこのガイドライン作成に関わってきた1人です。まず、重要なことは48時間以内に経腸栄養を始めることです。多くの場合は、人工呼吸管理されていたりして、口からご飯を食べることが困難ですので、鼻から胃に管をいれて栄養を開始します。大事なことは点滴で栄養を摂るのではなく、腸管から栄養を摂ることです。病は腸からと言いますが、腸を使用することが免疫の活性化にもつながります。
栄養内容に関しては、1.2g/kg/日以上の蛋白質投与をめざします。一般の方が必要とする蛋白質の必要量が0.8g/kg/日ですので、一般の方よりも蛋白質が必要なことがわかります。蛋白質をしっかりと投与することで、急性期に1日2%ずつ進行していく筋萎縮を防ぐことができ、PICSによる長期的な身体機能障害を予防することができます。
一方で、カロリーは少なめに投与するのが望ましいです。急性期にはそこまで激しい運動をすることはなく、身体のガソリンとなるカロリーは、そこまで必要ありません。むしろ、このカロリーが多いことが身体への負担となり、有害事象をきたすことも報告されております。このようにカロリーを抑えた栄養投与をpermissive underfeedingと言います。基本的には、25〜30kcal/kgをめざして、少しずつ栄養投与量を増やしていきます。これは、一般の方が1日に必要なカロリーよりもかなり少ないです。
このほかにも、リフィーディング症候群、腸内細菌、脂肪製剤の投与など様々なエビデンスが、この『ガイドライン』にまとめられております。PICSのない社会、ゼロピックスをめざすために、急性期の栄養療法に関わるすべての方に、この『ガイドライン』を熟読してほしいと思っております。管理栄養士や薬剤師、すべての職種でゼロピックスをめざしましょう。
中西信人(神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野)[救急医学][PICS][ゼロピックス]