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【識者の眼】「医療提供体制の脆弱性からの脱却を」齋藤訓子

No.5017 (2020年06月20日発行) P.59

齋藤訓子 (公益社団法人日本看護協会副会長)

登録日: 2020-06-03

最終更新日: 2020-06-03

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コロナ禍で緊急事態宣言が解かれた時期に本稿を執筆していますが、「油断は禁物」と誰しも思うところです。今後、当分の間は、life with COVID-19なので、 social distanceをとりつつ、手洗い・うがいとマスク装着が日常生活の習慣として根付くようになるでしょう。

さて、コロナ禍も終息もしくは収束に向かいつつあるようですが、医療機関は、受診抑制等で経営危機に陥っており、医療従事者の給与のカットも行われていることが報じられました。訪問看護も例外ではなく、利用者さんからの訪問自粛要請のため、大変、厳しい状況にあります。

過日、朝日新聞のインタビューでフランスの歴史家・人口学者エマニュエル・トッドさんが、新型コロナは「戦争」ではなく「失敗」と語り、「私たちは医療システムをはじめとした社会保障や公衆衛生を自らの選択によって脆弱にしてきた結果、感染者を隔離し、自宅に封じ込めるしか方策がなくなってしまった」と指摘しています(朝日新聞5月23日13版オピニオン)。

このインタビューを読んだ時、なるほどと妙に納得がいったのは、たぶん、私だけではないと思います。日本は高齢者割合が今後も伸展し、急性期病床に偏った日本の医療機能の見直しは確かに必要で、病床機能の再編は実施すべきと思いますが、これまでの医療・介護サービス提供機関は少しの余裕もなく、人員も必要最低限で行われているのが現実です。今回のコロナでその脆弱性が顕在化したと感じました。門外漢の私が言うことでもないと思いますが、多少のゆとりを持つためにはそれなりのお金が必要になります。しかし、これまで社会保障費の伸びを抑制することを選択してきたために、いざ、何かが起こると耐えられない状況になったという解釈もできるのではないでしょうか。日本の社会保障の根幹にある国民皆保険制度は大変優れていますが、今回のことで日本の医療提供体制は脆弱性も共存していることがわかります。2040年の全世代型社会保障の在り方を検討している政府には、脆弱性の脱却を念頭に置いた議論の展開を期待します。

齋藤訓子(公益社団法人日本看護協会副会長)[新型コロナウイルス]

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