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【識者の眼】「病院改革と医師の成長」藤井美穂

藤井美穂 (社会医療法人社団カレスサッポロカレス記念病院次席院長)

登録日: 2025-07-18

最終更新日: 2025-07-15

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米不足と物価高騰の中、2025年7月には、2024年の同時期の5倍という2105品目の食品が生産コストの増加を理由に値上げされる予定だ。経済不況が医療インフラである病院を地域から消去し、医療のフリーアクセスが崩れて、何日間も受診を待つ患者が行列するという悪夢が脳裏をよぎるが、メディアは何も報じていない。「国民皆保険制度をどうすれば維持できるか」の発言が石破首相から出たというのに、国民皆保険制度は崩壊することはないと、たかを括っているのだろうか。

病院経営の厳しさは報じられている。2024年度の病院経営状況についての調査結果によれば、医業収益の赤字病院は2023年度の49.2%から61.2%に増加した。今後も医療費は増加し続け、診療報酬のプラス改定は見込めないのであれば、そう遠くないうちに、多くの病院が何も報じられないまま倒産して、地域から消えていくのではないだろうか。診療報酬の改定率減少による医業収益の低下と光熱費、材料費の上昇というダブルパンチにすべての病院は、何よりも存続をゴールとした組織改革に着手しているに違いない。改革はスピード勝負だ。

既に2024年の医師の働き方改革において、早くから勤務体制の明確化に着手していた病院と、いまだ具体的な医師数の確保や配置などが試算されていない病院との間に明暗があった。当時、日本医師会の会議において感じた病院間の格差は、病院経営改善のスタンスの格差として存在しているように思われる。組織的な駆動力を集中して、1日でも早く改革を実現に近づけることが大切であろう。

私の勤務病院も例外ではない。循環器カテーテルのデバイスが値上がりしたため、症例を重ねても利益を見込めない、腹腔鏡やロボット手術器具、消耗品が高額で支出が多くバランスが取れないなど、急性期DPC病院の臨床現場において、支出削減の方策が医師自身から提案され始めた。医師たちの学会参加回数にも見直しが入った。

国内の臨床系学会は388あるという。学会数は増え続け、同じ領域に複数の学会が存続し、業者が絡む学会も少なくない。一度、学会認定専門医を取得したら、以後は高額の参加費で専門医を維持していくというシステムの改善と、学会数の整理を求めたい。たとえば、医師の専門医制度は教育研修を目的とする、学会は医師のリサーチマインドの賦活を目的とし専門医維持のための学会参加は廃止するなど、キャリアの維持から成長と向上を明確にしてはどうか。わくわくしながら研究を重ねた成果を皆に聞いてもらいたいという研究の原点を思い出しつつ、次世代には、Hang in there! 内面の勇気を託したい。

藤井美穂(社会医療法人社団カレスサッポロカレス記念病院次席院長)[病院経営][専門医制度改革

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