2025年も6月の時点で既に35℃を超える猛暑日が観測されるなど、異常気象が常態化しつつある。小児科でも、熱中症リスクを考慮した助言が求められる場面が増えており、本稿では子どもの適切な冷房環境について考えたい。
さて、乳幼児は高齢者と同様に熱中症に脆弱である。体重当たりの水分量が高く(65〜70%)、体表面積も大きいため外気温の影響を受けやすく、さらに発汗機能が未熟であることがその理由である。したがって、室内環境についても成人以上に気を配る必要がある。
『熱中症環境保健マニュアル2022』では、室温の目安を28℃としている。これは子どもでも当てはまるが、「エアコンの設定温度が必ずしも実際の室温と一致するわけではない」という点に注意すべきである。また、日本生気象学会は室外と室内の温度差を5〜7℃程度に抑えることを推奨しているが、猛暑が続く中、外気温が39℃近くになることもある。そんなときに室温を32〜33℃に設定するのは現実的ではない。一方で、同学会は室温を24℃未満に下げないことが大切、という注意喚起もしており、総合的に勘案すると室温25〜28℃を目安とするのがよいと考える。
ときどき、「夜寝ている間にひっそりと子どもが熱中症になってしまったらと思うと心配」と聞かれることがある。体温調節機能は覚醒時のほうが睡眠時より効果的に働くことが知られている。したがって、気温が高く体温が上昇すると、体温調節機能を働かせるために人は覚醒する。暑いと目覚める所以である。子どもも体温が上がっても静かなまま、ということはなく、暑いと言って起きたり、ぐずって機嫌が悪くなったりする。そのタイミングで適切に対応することができれば問題ない。もっとも寝たきりで自分で意思表示ができない医療的ケア児は注意が必要である。また、乳児については、機嫌が悪くて泣くことはできても自力で移動できないため、不機嫌などのサインにすぐに気づくことができる場所で一緒に過ごしてもらうように助言している。
「冷房はつけっぱなしでよいのか」と聞かれることもある。タイマー設定で冷房を止めると、途端に室温は上昇し目が覚める。それが睡眠不足につながるが、睡眠不足は翌日の熱中症リスクとなるため避けるべきであり、冷房はつけっぱなしでよいと考える。そして、掛け物による調整が望ましい。
扇風機のエビデンスについても考えてみたい。気温が皮膚温度より低い場合(35℃以下)には、扇風機は皮膚と皮膚周囲の空気の間で熱の交換を促すため、皮膚から熱が逃げていき体温が下がる。しかし、気温が皮膚温度より高い場合(35℃以上)には、この熱交換が十分に進まず、扇風機だけ使っていても熱風を体に当てるだけで体温が下がる効果は弱くなる。WHOを含め多くのガイドラインでは、35℃以上の高温環境下では扇風機の効果は十分ではないと指摘している。
とはいえ、扇風機が役に立たないわけではない。エアコンと扇風機の併用は、室内の温度ムラの解消に役立つだけでなく、冷感の増強効果もあり、より効果的に涼しさを届けることができる。また、エアコンの冷気に直接当たり続けると体が過度に冷えるため風向きを調整する必要があるが、扇風機の風を壁や天井に当てることで、直接風が当たらないように調整できる。跳ね返った風は柔らかくなるため、体への負担も軽くなる。こうした理由で、エアコンと扇風機の併用は効果的と考えられている。
この夏も、エアコンをうまく利用して乗り切って頂ければと思う。
坂本昌彦(佐久総合病院・佐久医療センター小児科医長)[小児科][熱中症]