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【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症と児童虐待対応件数の動向」小橋孝介

No.5033 (2020年10月10日発行) P.58

小橋孝介 (松戸市立総合医療センター小児科副部長)

登録日: 2020-10-01

最終更新日: 2020-10-01

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毎年8月頃に厚生労働省で開催される全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議において、前年度の全国児童相談所における児童虐待相談対応件数が発表され、省庁横断的に児童虐待に関わる行政説明がなされる。しかし、今年度は新型コロナウイルス感染症の流行による影響で、その開催が遅れている。今年度は新型コロナウイルス感染症関連の話題もあり、どのような内容が報告されるのか興味深い。

新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言等の影響で児童虐待通告がどのように変化したのか、厚生労働省は先だって令和2年1〜5月の児童虐待相談対応件数の動向を前年度と比較する形で公表した1)。2020年1〜3月までは前年度比11〜20%増と増加傾向を認めていたが、緊急事態宣言期間(4月7日〜5月25日)を含む4月と5月は3%増(4月)、6%減(5月)だった。1〜3月の増加率は、過去数年間の年次増加が15%前後である事を考慮すると、新型コロナウイルス感染症の流行による増加とは考えにくい。4月、5月は、家族の在宅時間が増加し、近隣住民からの泣き声通報が増えたとの現場の声は聞こえていたが、実数としてこれだけ減少している事は、学校の休校や乳幼児健診の中止を始めとする地域の見守り機関の活動縮小の影響が大きかったと思われ、苦しい状況におかれる子ども達が見えなくなっていた可能性が高い。現場の感覚として、6月以降地域の関係機関の目が入るようになり異変に気付かれ、通告に繋がっている子ども達が少なくないことから、6月以降の対応件数動向も気になるところである。

今回の経験から、子どもと家族に近い地域の持つ役割の重要性があらためて確かめられた。子ども家庭福祉における緊急事態宣言の影響等の分析が今後進むと思われるが、見えなくなってしまう子どもや家族にどうアウトリーチしていくかという問題点をいかに乗り越えていくのか、地域毎に医療機関も含めた多職種、多機関で情報や課題を共有、整理して、これからの新しい世界での子ども家庭福祉のあり方を創っていく必要がある。

【文献】

1)児童虐待相談対応件数(令和2年1月〜5月)の速報値. [https://www.mhlw.go.jp/content/000628642.pdf]

小橋孝介(松戸市立総合医療センター小児科副部長)[子ども虐待][子ども家庭福祉][新型コロナウイルス感染症]

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