No.5039 (2020年11月21日発行) P.60
中井祐一郎 (川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)
登録日: 2020-11-09
最終更新日: 2020-11-09
助産院を運営される助産師諸姉には、「活用する」という失礼な表現をお詫びしておく。しかし、この言葉は産科医による助産院支配を前提とするものではなく社会全体に向けて、ということでお許しを頂きたい。
当院では4つの助産院と提携をして、妊娠期間中に5回の妊婦健康診査を受託している…所謂、スクリーニング検査というやつだ。分娩数が月1〜2件という施設もあれば、2桁に及ぼうかというお産を取り扱うところもある。私自身は、女性にとって生理的な営みである分娩・産褥期を、より自然な環境の中で過ごすということにも意味があると考える。無影灯の光の中、感染防御に身を固めた医師や助産師に囲まれる分娩ばかりが正解ではない。
以前、高度医療機関に比べて、有床診療所での分娩にはリスクがあると言った医師がいたが、そうした医師にとってみれば、助産所での分娩などはもっての外かもしれない。しかし、陣痛促進や器械を用いた急速遂娩術が許されない助産師諸姉の分娩管理技術は、我々産科医よりも高いと言うことも可能であろう。
私は助産師に許される正常妊娠・分娩という定義を杓子定規に運用して、助産院での分娩の可否を決定する立場ではないと考えているので、最終的な判断は助産師諸姉にお任せしている。勿論、トラブルがあった場合には提携医療機関として搬送をお受けするが、分娩停止や胎児機能不全などによる搬送は殆どないと言っても過言ではない。スクリーニングにおける推定体重の限界はあるので、低体重による新生児搬送がないとはいえないが、予後を左右するような問題は発生していない。
医事紛争における訴訟支援を行う機会が多いので、助産院におけるトラブルに関与した経験も多々ある。確かに、少々エキセントリックな助産師による問題もあるのだが、そこには後送(提携)施設との信頼関係の欠如も見え隠れする。産科医と助産院の提携は、よりよい分娩の姿を模索する上でもう少し考える必要があるのではなかろうか。
中井祐一郎(川崎医科大学産婦人科学1特任准教授)[女性を診る]